不安
そいつは廊下に出ると、僕のスーツの袖を引きながら、そのまま玄関口へ向かおうとする。
「多分、職員室なら、先生と葵が居るだろう」
「葵って誰?」
「お前そんな事も知らずに勤めてるのかよ。葵の情報網をなめんなよ」
何故、生徒の情報を教師が知らなくてはならないのだろうか。
そいつは職員室のドアを開けると大きな声で「葵さん。居るかー?」と呼んだ。
教員は何故かそいつから眼を背ける。無理も無いだろう、あれだけ大きな声で呼ばれたら、他人のふりでもしたくなる。
すると、僕の机の下からひょこっと手が伸びてきた。
「なによもう、折角良いお菓子が手に入りそうだったのに、邪魔しないでよね」
「いやあのそこ、僕のお菓子置き場なのだけど」
その6等身の生徒は机の下から「よっこいしょ」と立ち上がると、ツカツカと近くに寄ってきた。
「葵さん。頼むからさーこの退学届けをりょう先生に渡してくれないかな」
そのパッツン頭の葵君は僕の両手にお菓子をドサッと渡すと、足早に職員室から出ていこうとする。
「葵さん?何でお菓子置いていくんだよ」
「だって見つかったからに決まっているじゃないの」
「それと今日は先生お休みよ」
2人は連れだって教室へ行ってしまった。
ポツンと残された僕は、とりあえず自分の机にお菓子を入れると、先程の生徒の答案用紙を確認する。何も書かれていない。うっすらと答えだけが消しゴムで消されている。その全てが合っている。どうしてそんな事をしているのか良く分からないが、とりあえず合っている問題だけ丸をつけておこう。100点になってしまったのだがどうするべきか…