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雨
2年前の春の事だった。
尚奈の親友、晴子が亡くなったのは。
死因は交通事故、葬式はしめやかに行われた。
葬式の帰り道、俺は自転車置き場から、自前の自転車を運びだす。
不意に後ろから声をかけられて、俺は振り向く。
同じクラスになったばかりの詩歌 尚奈がそこにいた。
「もうすぐ雨が降ってくるよ?傘は持った?」
「…いや。持って無いけど」
「貸してあげるよ。傘」
俺は自転車には乗らずに彼女の前を歩いて
行く。
「ね、謙二君。人ってどうして死んでしまうのでしょうね…」
「さあ?」
「私が悲しいのはね。人が死んでしまう事じゃないの」
「じゃあ、何?」
「秘密だよー」
そうして彼女は俺の手から自転車を引ったくり乗り込むと、小雨が降るなかを走り出した。
彼女が泣いているのか、俺には見えなかった。
春の雨が降っていた。
♪工場長はなりきって、真昼に蜘蛛と一緒に踊る 踊る♪ピンク色の日暮れを待ち焦がれて、蜘蛛と一緒に踊る♪踊る♪
葵は一人、溜め息をする。
晴子が創った詩だ。りょう先生はどう思うかしら。
「…苦しい事よね。忘れられないと云うことも」