出会いと腹パン
平成XX年
夕方午後六時
俺は帰路についていた
名前は輝邑砕牙
歳は今年で二十
大層な名前の割には、成人した今でもバイト生活
両親は俺が高校の一年の時に母が事故で他界
父は運命の因果か次の歳に病気で亡くなった
結構酷い人生ではあるが、こんな事を言うと白状だと思われるかもしれないが
俺のような環境の奴等この世の中には五万といる
逆に言えば、高校生と言うある程度成長した時でよかったのかもしれない
極端な話、生まれてすぐの間もない間に両親が死ぬよりは遥かにマシである
そういう考え方のせいか、俺は相当捻くれている
素直になれないと言えばいいのか、正直どっちでもいいし
はっきり言って、どうでもいいのだが
とまあ、このような事を考えながらいたら
何時の間にか目の前に見慣れた自宅のドア
今俺は、実家で一人暮らし
当然だ、親がいないのだから
まあ、兄弟やペットがいるというパターンもあるのだが
残念ながら、俺には血の繋がった兄弟などおらず
死んで悲しむようなペットもいなかった
一人、たった一人である
孤独・・・
それがいつも俺の周りに纏わりついていた
別にいい、いつもそう思っていた
悪い環境というのは、時間が経つと思いのほか慣れてくる物で
住めば都、その言葉通り
今となっては、俺には孤独の方が気が楽で落ち着くようになっていた
バイト先のコンビニからパクってきた賞味期限の近い弁当と
一応健康を気遣って奮発した高めの野菜ジュースを台所で出す
弁当をレンジで温め、弁当だけで足りなかった時の為に
昨日作り置きしておいた豚汁に火を点けた
暫くし、弁当は温まり、豚汁を茶碗によそった俺は
盆に全てを載せ、自分の一番のリラックススペースへと足を運ぶ
一番のリラックススペース、そう自室だ
今日はこれらを戴いた後に
少しくつろいで残った家事を全てやり終えてから再び自室に戻り
ベッドでぐっすり眠ろうと思った
そう思いながら自室のドアを開けると
今までの考えが吹き飛ぶほど奇妙な光景が目に入った
「・・・うん?あぁ、邪魔してるわよ」
「・・・いやいや」
人が居た
俺の部屋に人が来たのは何年ぶりだろうか
中学の頃に友人とゲームをした時以来だと思う
だが、問題はそんなどうでもいいことではない
俺の部屋の、しかも俺のベッドで座っているそいつは
記憶が確かであれば、見もした事のない他人であるからだ
おかしい、俺はこんな奴知らない
知らない奴がいきなり部屋に押しかけるというのはどうだ
しかも、しっかり鍵を閉めた筈なのに
何故家の中に・・・
「どうしたの?間抜けな顔しちゃって」
間抜けだと・・・
初対面の人間に向かって間抜けだと?
ほぅ~・・・
「誰か知らんが、間抜けなのは自分の格好なんじゃないか?」
こいつ・・・
何の漫画の真似事か知らんが
背中から黒い翼を生やしていやがった
当然、それが生えている物と思うはずがない
人類の背中に翼はなく、現実的に考えて
未来永劫、人間の背中に翼など生える訳が無いからだ
いやまあ、そうかどうかは知らないけどね
もしかしたら、翼が生える人間の未来もあるかもしれないけど
いやでも・・・無いだろう
「背中に翼なんて生やして、あれか?悪魔にでもなったつもりか」
「ご名答、私は悪魔よ」
「嘘おっしゃい、良く出来てはいるがどう見たって偽m」
言いかけた瞬間
説明するのを省いたが
そいつは女である
しかも、相当若い言わば少女である
少女の中でも体は小柄でとても愛らしいのだが
現在進行形である問題の翼と
俺の鳩尾に綺麗過ぎるほどクリティカルヒットした
細い腕からは想像も出来ないヘビーな一発に
そのような甘ったるい考えは消え去った
「ごぶほぉっ!」
おまっ!今から物食べようっていうのに
物を納める器官が破裂しそうになっちゃったろうが!
「ふう、これだから低俗な人間は・・・」
「てめぇ・・・少しはやり過ぎたと思わないのか?」
頭を押さえ、やれやれと言わんばかりに頭を振る少女
そして、溜息を吐き決断するかのように言い放った
「輝邑砕牙・・・あんた私の下僕になりなさい!」
こうして、俺のフリーターぼっち生活は
何処へ向くか分からない異常な日々へとシフトしていった