新生活のスタート
富鉱ちゃんが俺の家に爆着して一夜が過ぎた。
親父も母さんも息子が彼女を連れてきたと大喜びしていた。晩御飯にはお赤飯がでてくる始末だ。
富鉱ちゃんが家に住むこともすぐにオッケーしたし、親父にいたっては今夜は頑張れよ、と意味深な発言をしてきた。
全く昨日の夜ほど我が家がうるさかったことはないだろう。
「金時。朝だよ金時。学校行かなきゃ」
「そのうち行くから待ってろ。まだご飯を食べていない」
「むー、一秒でも遅刻したら金時の腕燃やすからね」
「朝っぱらから物騒なことを言うな。それにその金時って呼ぶのやめてくれ。恥ずかしい」
俺の名前は菊池 金時。
親父の大好物が金時って理由で付けられた残念な名前だ。全く犬とかに名前をつけるような感覚で息子の名前を決めるんじゃない。
「えー『金』が入ってて可愛い名前じゃない。私は好きだけどなあ。金時……。きんとき……。ふふふっ」
くすくすと柔らかく笑う富鉱ちゃん。
俺の名前で笑っているけどお前の富鉱って名前も結構酷いからな。学校で笑われるぞ絶対。
「おーおー、朝からアツいねー二人とも。お父さん嫉妬しちゃうなー。それにしても金時にロリコンの趣味があったなんて、血は争えんな」
コーヒーを啜りながらニヤニヤとこちらを眺めている親父。
勘違いをするな親父よ。
こいつはアンタの何百倍の年月を生きてきているぞ。外見は小学生だけどな。
というか親父は変態王子として変態王国に強制送還されるといい。
そのうち、全く富鉱ちゃんは最高だぜ!とか言い出しそうで怖い。
「バカなこと言ってないでお父さんは早く出勤して」
「へいへーい」
はは、母さんに怒られてやんのー。
「金時はそろそろ出ないと遅刻するよ?早くしないと富鉱ちゃんに腕燃やされちゃうかもね」
「母さん、今それをいいますか」
「え、もう遅刻しそうな時間なの?金時、ご飯なんて食べていられないわ!早く学校に行くわよ!」
腕を強引に引っ張られ玄関まで引きずられる俺。今回も腕に深刻なダメージが発生しました。
「金時、ふーちゃん。せめて、これを持っていってね」
母さんがラップに包まれたホカホカのおにぎりを渡してくれた。
中身はおそらく俺の好物のシーチキンマヨだろう。これで三年は戦えるな。
「ありがとう母さん」
「これってシー何とか?あれ微妙だったんだよね」
「ミルクティー買ってやるから我慢しろ。それに早くしないと遅刻するぞ」
「そうだった!遅刻したらホントに腕燃やすからね!」
「オーケー、まずは靴を履かせろ」
いつもの愛用靴を2秒で履く。
毎日遅刻しかけているから、いつの間にかすごいスピードで履けるようになってしまっていた。
って富鉱ちゃんの靴がまさかのサンダル。
学校で注意を受けないか心配だから俺が昔に一度だけ履いた小さな革靴を引っ張りだして履かせる。
それでもまだ大きいようだが仕方がないだろう。
「えへへー金時の靴ー」
新しいおもちゃを与えられた子供のように、はしゃぐ富鉱ちゃん。
可愛いな畜生め。
「えっと、それじゃあ親父、母さん、行ってきます」
「頑張って行ってきますねー」
「おう、いってらっしゃい。金時、富鉱ちゃんを守ってあげるんだぞ」
「いってらっしゃい二人とも。いいね、昔を思い出しちゃう」
家族に見送られ家を後にする俺たち。
本日は快晴。
雲一つ見当たらず真っ青な空が目に優しい。
夏も近づいてきたせいか、いつもより太陽が近くに感じられる。
神様の彼女ができた俺の新しい生活を後押しするかのごとく夏の匂いをたっぷりと含んだ心地よい風が追い風となって俺たちの後ろから吹いているのだった。