消える少女
「ほら消えたでしょ?」
何もないところから不幸ちゃんのあまとろきゅんきゅんロリボイスが聞こえる。
わー、なんか幻聴みたいで怖い。
「そぉい!」
「きゃっ!」
さっきまで不幸ちゃんがいたところを抱きしめると、見えない何かが腕の中に収まる。
じたばたと逃げ出そうともがいているが、この腕は完全にロックされた。
逃がしはせん。
ふにふにと少女特有の柔らかさが俺の腕を圧迫し、腕の中の見えない不幸ちゃんが暴れるたびにミルクのような甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐる。
なにこれ楽しい。
「くっ、いい加減にしなさい!」
あれ、腕の中から不幸ちゃんがいなくなった。溶けたか。
「はぁ……はぁ……。酷い目にあったわ……」
不幸ちゃんは俺から少し離れたところで姿を現し洞穴の壁に寄りかかりぐったりとしていた。息は荒く頬は少し赤に染まっている。
「いやーすごいすごい。まさか、本当に神様だったりしてな」
「だからっ……神様って言ってるっ……でしょ」
「オーケー、まずは落ち着こうか」
すぅはぁと深呼吸をする不幸ちゃん。あと、ひっひっふーは使いどころが間違っている。妊婦さんと間違われてしまうから気を付けろよ。
「ふぅ。あのね、私はここ、ふこう穴に祭られている神様なの。千数百年も生きているのよ。姿も消したっていうのに少しは驚かないの?」
「いや、これでも結構動揺しているのだが。しかしなんでまた神様が俺の目の前に姿を現したんだ?しかも今になって」
そうだ。俺は半年ほど前からここに入り浸っている。
よく来るようになったのはここ一か月なのだが。
「ほら私のところって幸福ちゃんのところと違って何もないでしょ?けれどあなたは一か月間毎日ここに来た。つまりボーナスゲームってところかな」
「幸福穴のほうにも神様いるのか。本当に何もないここにもいるのだから向こうにいないわけないか」
寧ろ、何かがいなかったら幸福穴で起こっている現象を説明することができない。
洞窟の中に幻覚を見せるアレな植物が繁茂していたりガスが漏れ出していたりしたら話は別なのだが。
「で?ボーナスゲームってなんだよ。アレか、幸福穴みたいに異世界の大都市でお宝がムーンウォークか?」
「幸福ちゃんと同じと思わないでよね。私のほうが何倍もえらいんだから。幸福ちゃんは研修中の神様で今は特訓中なの。だからその人の願いは夢の中で叶えさせる程度の力しかまだ持っていないわ」
おお、幸福穴に入り浸っているリア充たちは研修神様の練習道具だったなんて。
なかなか面白いことを聞いてしまったかもしれない。
「じゃあなんだ。お金とかくれるのか?」
「あなたが望むのならいいわよ?宝くじを当てるくらいどうってこともないわ」
おい、この少女さらっととんでもないことを口にしたぞ。
んんwww圧倒的運命力ですぞwww
「へぇ……。じゃ、じゃあ今降ってる雨だって消せちゃったりしてな。予知能力があったとしても、流石に自然界の現象を操作するなんて──」
「止めたわよ」
……は?