黒髪の少女
「って誰だあんた!」
さっきまで洞窟の中には俺以外いなかったはずだが、
いつの間にか俺の横には一人の少女が座っていた。
太ったどんぐりのようにくりくりした可愛い瞳。
ちょんと乗っかった小さな小鼻に形のいい薄い唇。
髪は肩にかかるぐらいの艶々した漆塗りされたような黒色。
身長は130センチ半ばぐらいだろうか。
とても小さい。
ところどころレースで飾られた、シミひとつない純白のワンピースを着ていた。
一言で言うならものすごい美少女だ。
その少女は俺の目の前から消えたおにぎりをおいしそうにもっしゃもっしゃと咀嚼している。
「んーあなたが熱弁していたほどおいしいものでもないような?」
少女が可愛らしく小首をかしげる。
「あはは、可愛いなあ。じゃなくて誰だよお前」
「こっちのレーズンパンっていうのはおいしいのかな」
「おい、人のパンを勝手に食べるな。そして貴様はどちら様だ」
「なにこの黒いつぶつぶ!全然おいしくないじゃない!うえぇぇ」
「人の好物を勝手に食っておきながら吐くなんて何様だよ。お子様だったな。つーかお主は何者だ」
「ズズッ。あれ?この飲み物おいしいわね。他のはさほど美味しくもなかったから期待はしてなかったけど。当たりだったみたい」
「全部食いやがって。俺の税込268円返せよ。そして嬢ちゃんはどこの娘さんだ」
「お腹も減ってたところだし丁度よかったわ。ありがとね」
会話が成立していない。
サッカーしようぜ、俺キーパーな。
と言っているのに俺にめがけて千本ノックして来ているような感覚だ。
なんというかフライハイ。
「いい加減俺の質問に答えてくれ。お前は一体誰だ?外からやってきたならこの土砂降りだ。少しは濡れていてもおかしくはないはずだが、お前は全く濡れていない。最初からここにいたっていうのか」
「私?私はふこう」
ふこー。フコー。不孝。不幸……。
「はいはい、不幸ちゃんねー。いい名前だなー。で、いつからここにいたんだー」
「最初からよ。ここは私の家だもの」
「へぇ、ここは不幸ちゃんの家だったのかー。知らずに毎日上り込んでしまっていたなー。これは申し訳ないー」
「別に気にしてないわ。ここは玄関口みたいなものだもの」
「それはよかったー。ところで最初からいたって言うけど姿が見当たらなかったのはなんでー?」
「姿ぐらい消せるわよ。私、神様だもの」
はい、来ましたよ神発言。
そりゃあね、不幸ちゃんぐらい(見た目小学生)の時の俺だって自分は特別な存在と思っていましたとも。
だからここまで会話の千本ノックに付き合ってきたが自分を神とか言っちゃうイタい女の子もどうかと思うよ。
しかも姿を消せるなんて面白いことを……あれ、不幸ちゃんどこいった?