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不幸の幸福  作者: PC
2/9

俺の街の奇妙な洞窟

 俺が住んでいる街には「幸福穴」と「不幸穴」と呼ばれる二つの洞窟がある。


 幸福穴は町を一望できる丘の上にあり夜になると綺麗な夜景を見ることができる。

 最近の恋愛に積極的な若者たちには、昼間は遊び日が暮れると夜景の見える丘の上で告白。成功したら二人で幸福穴に入るというデートプランが人気である。


この一連の行動を誰が呼び始めたかは定かではないが「恋愛絶対成就コンボ」と呼ばれている。


 忌々しい。

 ああ忌々しい。

 忌々しい。


 おっと、取り乱してしまった。失敬、説明を続けるぞ。


 幸福穴に入るといつの間にか自分の家の自分の布団で寝ているらしい。

 幸福穴に入った後の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっていると聞くが、何故かとても楽しかった、幸せな気分だったと皆口々に言う。

 

 中には穴の中の出来事を覚えているなんて言い出す者もいるが内容は、

 やれ、別の世界で自分ではない人生を幸せに送っただとか、

 やれ、大都市を築き上げただとか、財宝を見つけて億万長者になっただとか、

 やれ、犬がムーンウォークしながら缶コーヒーを啜っていただとか、

 全く、信ぴょう性に欠けるものばかりである。


 一方で不幸穴はというと、一言でいうならただの洞穴だ。

 

 中は一メートルほどしか奥行きがなく高校生の俺が屈まないと入れないほどの高さ。

 幸福穴みたいに家に強制送還されたり記憶がなくなったりもしない。

 入ったら不幸になるってわけでもなさそうだ。

 そのせいか皆からは目も向けられず住宅街の空き地でひっそりと口をあけている。


 入ったら不幸になるから不幸穴ではなく、誰にも相手にされないから不幸穴なのかと一人で勝手に納得している。

 

 幸福穴が有名になったころは不幸穴にも面白半分で入っていくバカな奴らもいたものだが何もないと知った途端に人々は不幸穴という言葉を一言も話題にあげることはなかった。

 

 今では俺の最高の憩いの場となっている。

 不幸穴は俺の学校と家の中継地点にあって更にコンビニが近くにあると来た。

 適当に食べ物買って洞窟で休むってのがセオリーだと俺は思うね。 

 いい感じの広さだから落ち着くんだよな。ここ一か月くらいは皆勤賞だぜ。


 ここまで二つの穴のことを説明してきたが不幸穴のほうは我が部屋同然のように出入りしているが幸福穴のほうには一度も入ったことがない。

 だから先ほどの説明では「らしい」という単語を使っていたのだ。幸福穴については全て人から聞いた話だ。

 

 ほら、幸福穴周辺にいくとカップルがわんさかいるものだから負け組の俺からしたら少しばかり近寄りがたい場所なんだ。

 カップルたちが嬉々として二人で入っていくのに対し冴えない男子高校生が一人で入っていくなんて惨めすぎるだろ?


 まあそういうことだ。


 そして今日も俺は憩いの場に足を運ぶのだった。


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