表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

家族

目が覚めた。

窓の外は黒一色。どうやら夜のようだ。

知らない間に千春は眠ってしまっていたらしい。

服がベッドに散乱しているので、おそらく服を見ていたときに寝たようだ。

上半身を起こすと、扉を叩く音がする。


「千春、起きてる?」

「・・あぁ。何の用?」


千春は寝ぼけた面で扉を見る。

何で秋葉は俺が寝ているって知ってるのだろうか。

不思議に思う千春であった。


「もう少しで母さん達戻るから、下に来なさい」

「あーやだやだ。この姿で会うのは抵抗あるなぁ」

「めんどくさい奴ね。さっさと来な」


命令口調になったので、千春は嫌々ながらに起きて下に降りる。

秋葉を怒らせると怖いからな、と思いながらリビングに入る。

時刻は7時を回る頃。もうすぐ帰ってくる。

心臓が嫌でもバクバクとなる。

千春はソファーに大胆に座り、上を向き溜息を放つ。

こんなに緊張をしたのは初めてかもしれない。

前まで普通の生活をしていたのに、今となっては波乱だ。

おまけに身体に宿る不思議な力もある。

一体どれくらいの力があるのだろうか。


「千春、何をボーっとしてるのよ」

「んぁ?」

「間抜け面ね。チャイム鳴ってるのが聞こえないのかしら?」


千春は気付いてしまった。

確かにチャイムが鳴っている。


「あ、えー、俺のことは話してあるんだろ?」


一応確認を取ることにした千春。

だが、その返事に千春は絶句した。


「は?言ってるわけないでしょ?」

「・・・・・何で?」

「自分で説明したほうが良いに決まってるからでしょ?」


三度目のチャイムが聞こえた。

秋葉は顎で玄関を指し、千春に行けと命令する。

手汗やら脂汗などが滲み出る。

千春はどうやら腹をくくるしかないようだ。

自分の頬をペチンと叩く。

廊下へ行き、玄関へ行き、扉のノブに手を掛ける。

が―――

突然、玄関の扉が開いた。

千春はバランスを崩して前に倒れる。


「ぬわぁ!」

「ぎゃっ!」

「あ、アナタ!」


父を押し倒す形となった。

千春の父、秋宮裕二はどぎまぎしながらも顔を赤に染める。

こういうのも悪くない・・と思った裕二であった。


「千春!?大丈夫!?」

「な、なんとか・・」

「秋葉!この子は誰なの!?いきなり裕二さんを押し倒すなんて・・・きいぃぃぃ!ジェラシー!」


千春の母、秋宮散美は発狂しながら千春を蹴る。


「い、痛っ!やめろ!実の息子を蹴るとかやめろ!」


千春は蹴られている脇腹をさすりながら叫ぶ。

秋葉はその光景を見て思う。


(・・なかなかバイオレンス)


裕二はその光景を見て思う。


(いいなぁ・・・僕も蹴られたい)


どうしようもない連中だった。

千春は散美の攻撃を回避しようと自室へと逃げる。


「ちょっと!勝手に千春の部屋に入らないでよ!ま、まさか千春ったら彼女が・・・?」


気持ち悪い妄想をする散美を無視しながらベッドに潜る。

もう嫌だ、と思いながらベッドでブツブツと呟く千春であった。

だが事実は言わなければならない。

血走った目をした散美を納得させるのが難しいが、避けられないことだ。

千春はしょうがなく起き上がり、散美の目を見る。


「母さん」

「アナタに『母さん』なんて呼ばれる筋合いはないわ」


思った通りの反応である。


「違うんだ。実は―――」





貧乏揺すりがリビングに響く。

眉間を押さえていた散美は、場の沈黙を解くために口を開いた。

だが、先に口を開いたのは裕二であった。

散美は不機嫌そうな顔になりながらも、台詞を裕二に譲る。


「本当に、千春なんだな」

「はい」


千春は丁寧に敬語で答える。

いつもの裕二と違い、今は真剣である。


「それにしても・・・ギャップがあり過ぎだろう」

「まあ、はい」

「髪の色も違うし、一体誰似なんだか」


裕二は頭を抱えたくなる。

どうしてもこの現実が受け入れられないようだ。

裕二は今この現実は夢なのではないかと思い、頬をつねる。

痛い。やっぱり現実だ。

長い溜息を吐いた。


「家族の柱となる男が減ってしまったな。なぁ母さん?」


散美は千春の顔をジッと見つめている。

どうやら聞こえていないようだ。

裕二は頭を掻きながら散美の肩を叩く。

一瞬、肩がビクッと痙攣を起こし、散美の思考を回復させる。


「しっかりしてくれ。それとも、千春の顔をご存知か?」


先ほどのように、肩が痙攣を起こす。

散美は無駄に笑みを浮かべる。


「・・・知らないわね。・・けど、いいんじゃない?」


千春は耳を疑った。

秋葉は当然とのようにお茶を啜っている。

どうやらフォローしてくれなさそうだ。


「母さん、俺、元に戻りたいんだが」

「今のままでいいわよ。あんな性悪な格好、私が嫌よ」


散美は貧乏揺すりを止めて話し出す。

さっきとは違い、散美も真剣に考えている。

暴れまわって疲れたのだろうか。


「それに、僕は押し倒されたしな」

「アナタ。『それに』の意味がわからないわ」

「・・・ん?ちょっと待て?」


千春は疑問に思う。

今の言い方は、まるで千春が自分から押し倒したみたいになっている。

だがそれは違う。ドアが突然開いたから、ああなったのだ。


「お前らのどっちかがドアを開けたんじゃないのか?」

「ん?何を言ってるんだ?僕と散美は何もしていないぞ?怖いことを言うんじゃない」


その事実を聞いた千春は眉間を押さえたくなった。

また、何かの力で開いてしまったのか。

そう思うと、何だかやるせない気分になった。

秋葉も一部始終を見ていたので、顔を青くさせる。


「そ、そうか。俺、疲れてるのかな?」

「そうよ。だからもう寝たら?」


秋葉の言葉の裏で「邪魔だ」って言っているような感じがした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ