序
主人公最強系と性転換系を混ぜてみました。
出来の方は悪くないと思うので、是非見てください。
まだあまり鳴り渡っていない蝉の声が所々に聞こえる。
夏だと感じさせるその鳴き声は千春にとって、ただの苦痛でしかない。
名前の通り女だと思っている人も多くはない。
だが、実際は女ではなく男だ。
女みたいな名前だが、それは親の趣味みたいなもので、外見は田舎の不良そのものだ。
髪はオレンジでオールバック。
前髪が長いからか、後ろにかきあげた際に一つに束ねられている。
周りからは怖がられ、あまり人が寄ってこない。
別に怖がることはしていないのだが、人々は勘違いをする。
髪型の所為かと思い、一時期は前髪を下ろしたが変わらず。
そんなこったで秋宮千春は姿だけで勘違いされるのであった。
不幸と言えるほどの日常に、いつしか癖になった言葉は、
「・・・普通って何だろう・・」
と言うものだった。
通学路の坂を登る千春には友達と呼べる人物は一人しかいない。
そのため、いつもこの坂を登りながら、そいつが来るのを待つのであった。
そして、後ろから猛烈ダッシュしてくる足音。
その音は間違いなく千春に向かっている。
千春はピタリと立ち止まると、その背中にドシンとぶつかる小さな身体があった。
「痛っ!急に止まるなよ!」
「じゃあ、俺に突進するのを止めろ」
千春は後ろを振り返ると、すぐさまに頬をペチンと軽く叩いた。
宮部光太郎は「ひぅ!」と小さく悲鳴をあげながら千春の隣につく。
その身体は非常に小さく、150を満たさないものだ。
千春は170を軽く越えていたのだった。
周りから見れば、光太郎は千春の舎弟みたいだった。
そのせいで、また千春は恐れられる。
「・・・光太郎」
「ん?何?」
「普通って何だろうな」
「・・・そんなに気に入らないなら、自分から話してみれば?」
光太郎との出会いは、まあ話せば長くなるのだが、
短くまとめてしまえば幼なじみだ。
光太郎の髪は女子みたいにストレートで、若干茶色だ。
顔立ちはなかなかの美少年であり、女子には大人気。
良く千春のことを言われるが、笑って受け流すようだ。
全学年から恐れられる千春は最早バケモノ同等であった。
よって、千春が返す言葉は毎回決まっていた。
「俺が近寄ったら、みんな逃げるだろ。絶対にな」
「み、未来のない言い方だね」
苦笑いする光太郎に対して、千春は笑うことすらできなかった。
この松原高校に入学してから、まだあまり経たないのに、未だ友達ができないのだから。
‡
一通り学校生活を終え、帰宅した千春は今日が七夕だとふいに思い出した。
両親は仕事で夜まで帰らず、姉は大学のサークルで遅い。
ベッドに横たわる千春は、暇に耐えきれなくなり、つい唸る。
「はぁ・・・。外にでも出るか」
重い身体を嫌々に起きあがらせ、外へと出る。
日差しがギラギラして、舌打ちをしたくなるほど暑かった。
東京よりは暑くないのだろうが、田舎も暑いは暑いのだ。
どこか本屋によって涼しさを求めることにした。
千春は本屋に行くべく、その道を歩く。
が、ふいに後ろから視線を感じた。しかも複数。
背中がゾッとし、つい声を荒げて振り向く。
「誰だゴラァ!見てんじゃねぇ!」
もう口調が不良同然だった。
まああいにく、周りには誰もいなかったのが幸いだったろう。
千春は小さな疑問を胸に抱きながら本屋へと向かうのであった。
‡
本屋で成人向けな雑誌を買ってしばらくして家に帰った千春であった。
帰った頃には姉である秋葉がサークルから帰ってきていた。
姉のサークルは、何やら怪しいものであり、オカルト関係らしいのは知っている。
時刻は夜。いつもは母が夕食を作るのだが、その母がいない。
何かあったのかと思った千春はそっと部屋に戻る。
そっと戻る理由は、千春が買った成人向け雑誌にある。
足音を殺しながら部屋のノブを回すと、向かいの部屋の扉が勢いよく開いた。
「・・・んだよ」
「なんだ、千春か。敵襲かと思った」
物騒なことを言いながら、秋葉は一つ溜息を吐くのであった。
大学生のくせに脳みそは子供かよ。
そんなことを思いながら千春は目線を無視しながら部屋に戻ろうとする。
なぜなら、未だに周りから視線を感じるからだ。
家の中なのに、なぜ感じてしまうのかがわからなかった。
額に汗が溜まり、じめじめした気分になる。
だが、そんなのお構いなくに秋葉は言葉を続ける。
「今日、両親帰ってこないってさ。仕事だって。だから夕飯作ってよ」
「・・・秋葉が作れよ」
両親の帰宅についてはわかったが、そこで千春が作る理由がわからなかった。
いつも秋葉なのに、なぜこの時だけは千春なんだと。
半ばキレた千春は額に青筋を浮かべる。
「・・・あのね。私はお姉ちゃんであって、千春は弟でしょ?立場を考えなさいよ」
やれやれ、と言ったような仕草をする秋葉に反応すら見せないように、千春は再度無視する。
そんな千春にムカついたのか、秋葉は後ろを向いている千春の首を掴み、後ろの壁に叩きつけた。
「がふっ!」
「さっきから無愛想すぎでしょ!何その態度!?」
うずくまった千春を踏みつける秋葉は、腕組みをしながら勝利を吠えるようにする。
ふん、と鼻を鳴らす姿はどこかのプロレスラーにも見えた。
千春はビニール袋から手を離すと、秋葉がそれを拾い上げる。
まじまじと雑誌を見つめる秋葉を見た千春は全身の血が下がっていくのを感じた。
「・・・ふーん。ま、男の子だもんねぇ。そうですか・・・」
「か、返せよ!オカルト女!」
「はっ!?オカルト女!?やめてよ!そんなあだ名!」
「顔を赤らめるな!気色悪いわ!」
秋葉の手からサッと盗み、千春はさっさと部屋に戻った。
先ほど感じていた視線も感じなくなっていたので、とりあえず一安心だ。
秋葉の怒鳴る声が聞こえてくるが、空耳だと言い聞かせ、そのままベッドに横になった。
なぜか余り腹も減っていないので、このまま寝てしまおうと思った。
いつしか怒鳴る声も止み、外からフクロウが鳴く頃には意識は闇の中へと落ちていった。
まだ物語は発展しません。
しばらくは敵とかは出てこないでしょう。