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ガールズトークRPG  作者: 加茂正路
第三章.嵐の塔編
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ⅩⅩⅧ.マホツカの事情

 精霊王戦の勝利の宴は、ノンアルコールのお店でささやかに催された。みんな朝からずっと緊張していたせいか、街に戻った途端にドッと疲れが押し寄せたこともあって、マホツカも二つ返事で宿屋に近いお店を探してくれた。何よりも前回の二の舞だけは絶対に回避しなければならなかったからね。

 晩餐後はすっかり場所を記憶してしまっている激安宿屋へ直行。明日は一旦シンヨークに戻って軍資金(りょひ)を頂戴してくる予定だ。メリガンシティとは今日でお別れである。

 そんな自然に囲まれた長閑(のどか)な街での最後の夜は静かに終わるはずだと思っていたら、ちょっとしたイベントが待ち構えていた。

 今夜はマホツカと同じ部屋になったんだけど、お風呂から戻るといなくなっていたのだ。ほおっておこうかと思ったけれど、寝るにはまだ早い時間なので、暇潰しを兼ねて探してみることにした。

「う~む、なかなか悪くない味ね」

 さすがに外へは出ていないだろうと踏み宿屋内を隈なく探索してみたところ、屋上にて目立つとんがり帽子を被った黒衣の少女を発見した。

 鉄柵の上に座っているマホツカの手には小サイズの酒ビンらしき物が握られていた。こんなところで一人晩酌に興じているとは、そんなにアルコールを摂取したいのか。まったく、将来が不安になってくる。

「どこで買ったの、こんな物」

 こっそりと近づいてひょいと酒ビンを取り上げる。しかし、わたしがいることに気付いていたのか、マホツカは文句一つ言わずにローブの中からもう一本取り出した。どんだけ隠し持っているんだよ。

「ノンアルコールだからいいのよ。あと、それは上げるわ」

 有名な飲料メーカーのロゴが入った小ビンには、確かにアルコール度数ゼロパーセントの文字がデカデカと印字されてある。試しに一口飲んでみると…………、

「うわ……苦」

 好き嫌いのないわたしだけど、これは駄目だ。父親はいないし母もアルコール類は飲まないのでそもそも馴染みがない。よくこんな苦いだけの飲み物をマホツカは平然と飲めるよね。

「その苦味が美味しいと思えないうちは、まだまだガキよ」

「マホツカだって十分子供でしょーが」

「ふふん。魔法使いはね、その辺特別なのよ」

 まったくもってつかみどころのない性格だ。気が付くとすぐに変なペースに乗せられてしまうから恐ろしい。

 半分以上残っている中身をチビチビと消化しながらマホツカと並んで空を見上げた。

 今宵は天気が愚図(ぐず)ついているせいか、雲に覆われて星は見えない。代わりといっては物足りない街中の明かりがぽつりぽつりと点在している。シンヨークに比べるとメリガンシティはまだまだ田舎だな。

 マホツカはいったい何を考えながらこの景色を見ているのだろう。

「ねえ、マホツカ」

「んー、なに?」

 わたしの問い掛けにもずっと空を眺めたままのマホツカ。中々様になった仕草で酒を(あお)っている。わたしもつられてもう一口。

「どうしてマホツカは旅について来たの?」

 戦士と僧侶ちゃんは彼女らから直に教えてくれた。話してくれた以上の事をまだ抱えているような感じもあったけど、それもいつか明かしてくれるだろう。

 ただマホツカは話してくれる気配がない。それ以前に自分のことをほとんど語らない節がある。普段はギャーギャー一番うるさいはずなのに、気が付けばマホツカのことは何一つ知らない状態だ。生まれとか、どこで暮らしているとか、そもそもなぜ魔法使いなのかとか。

 しばしの沈黙の後、マホツカは面倒くさそうなため息をつきながら重たい口を開いた。

「……そんなこと知ってどうすんのよ」

「どうって……。ただ知りたいだけなんだけど」

「どうせならもっとタメになることを訊きなさいよ。合コンで絶対スベらない話とか、男を確実にナンパする方法とか」

 それこそ聞いてどうすんだよ。てかナンパすんなよ、されろよ。

「いいじゃん別に。減る物じゃないんだし」

 そこで初めてマホツカがわたしの方を向く。青みがかった瞳にはなぜか残念そうな人を見るような色味が存分に含まれていた。

「減るわよ、ワタシの謎が」

 さいですか……。

「いーい? 謎がオンナを綺麗にするのよ。覚えておきなさい!」

 さいですか……。

「それと、魔法使いは自分自身について不必要にモノを語らないのよ」

 そう、なの? 魔法学の先生はやたらペラペラとキュートなワイフとプリティーなドーターとファンタスティックなペットの話を、クラスの半分以上の生徒が寝落ちしているのに語り続けていたけどな。

「もしかして、ワタシのことが信用できないのかしら?」

 意地の悪そうな笑みでそう付け足してきた。ちょっとずるいな。そんなこと言われたらこれ以上何も追及できないじゃん。

「はっはは、冗談よ冗談。勇者はすぐ本気にするんだから」

 むー。

「分かったわよ。それじゃ特別に教えてあげようぞ」

 唇を尖らせて不満を顔に出すわたしに、マホツカはもったいぶるように切り出す。子供扱いされたようでちょっと(しゃく)だけど、気になっていた話が聞けるチャンスだ。いったいどんな真実がそこにあるのか……。

「端的に話すと、ワタシは面白いことが大好きなの」

 ふむふむ。

「で?」

「でって?」

「いや、だから、面白いからの続きは?」

「へ? それで終わりだけど」

 …………。

「なぬー!?」

 それだけ? 本当に? こやつは魔王討伐の旅が面白そうだからという理由だけで同行しているんかい。なんという単純で明快な動機だよ。

「他に何があるっていうのよ。魔王を倒して有名人になりたいとか、かしら?」

 そう言ってマホツカは酒ビンの中身を一気に飲み干した。

「それじゃ今宵はこれにてお開き。先に寝てるわよ~(ノシ)」

 わたしを一人屋上に残して階段を下りていきやがった。まじかよ。

 こういうところだけ見ていると薄情だなと思ってしまう。けれど……、

「本当は違うくせに……」

 面白いからなんて、そんな安逸な理由だけでマホツカが行動しないことは分かっている。普段は昼行灯(ひるあんどん)だけど、昨日わたしが精霊王にやられた時に最も怒りをあらわにしていたのは他でもないマホツカだ。

 きっと恥ずかしがり屋なんだろう。まったく、素直じゃないな。

「う~む、一筋縄ではいきませんな」

 わたしもビンの中身を飲み干した。いかんな、クセになる味に思えてきた。

 話したくないことを無理に聞き出したいわけじゃない。

 でもわたしたちは仲間なんだから、もっと信用してほしいな。

 とはいえ、まだ出会って日も浅いわけだし、ゆっくりいけばいいか。

 生憎と、旅はまだまだ続くのだから。

 そう、まだまだ…………。

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