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ガールズトークRPG  作者: 加茂正路
第三章.嵐の塔編
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ⅩⅩⅦ.嵐の精霊力

「恨みっこなしだからね? それじゃいくよ!」

 四者四様、グッと拳を溜めるように構える。

「せーの! ジャガジャガジャンケン、ジャンケン、ポン! あいこで、ショ! あいこでショ! ショ! ショ――――」

『……………………』

 マホツカの魔法によって修復が不可能なレベルまで破壊された尖塔の屋上にて、精霊王(鳥モード)が見守る中、わたしたちは精霊の力を賭けた死闘を繰り広げていた。

 激闘の末にどうにか倒した精霊王は、再び鳥の姿になってわたしたちの前に現れた。やられたことなど意に介さず淡々と話を進めていく王。だけど寝起き直後の寝癖みたいに翼の羽はボサボサ、光の結晶のように美しかった半透明の羽もヒビの入ったガラス状態で、偉き者の象徴とも言える長い角も根元から折れていた。わたしたち四人しかいないんだから、痩せ我慢しなくてもいいのに。

 その満身創痍な精霊王から、これから授けてくれる力の説明をしてもらった。曰く、武器、装飾品、魔法の中から好きなものを一つ選べという。具体的にどのような力かを教えてくれないところがいじらしい。

「「「「あいこでショ! あーいーこーで、ショ!!」」」」

 さっそくわたしに力を授けようとする精霊王に対して、わたしは待ったを掛けた。今回の勝利はみんなで勝ち取ったのだ。ここは公平にジャンケンで決めるのがスジではないか。

 その提案について精霊王はしばし沈黙した後、別に構わないと了承してくれた。また、みんなは割と遠慮がちな反応を示したんだけど、わたしが説得した結果最終的にはこうして本気で勝負に参加している。

 と――、

「「「「あいこでショ! ショ! ショ! ショ!?」」」」

 永遠に続くのではないかと思える引き分けの果て、一人の少女が栄光を掴み取った。

「か、勝っちゃいました……」

 何か悪いことをしてしまったのではないかという僧侶ちゃんの反応。本当にいいんですか? という目をわたしに向けてくる。

「遠慮しないで僧侶ちゃん」

 嬉しそうな……でも喜んでは失礼ではないか……という表情の僧侶ちゃんもグッドです! それが見られただけでお腹いっぱいだよ。

「ではお言葉に甘えて……」

 僧侶ちゃんがおずおずと巨鳥の下に歩み寄った。

「くやし~、せっかくレアな魔法が手に入ると思ったのにー!」

「ここぞという時に勝てないとは。私も修行が足りないな……」

 心底悔しそうに地団太(じだんだ)を踏むマホツカの隣で、戦士が理に適わない悩みを呟いている。ああ、運の能力値が低いってやつか。

『神に仕える僧か。では汝よ、何を求む』

 騎士姿の時はどこか荒くれ者な印象だけど、鳥モードの時はいかにも王に相応しい厳かな口調である。どこぞのダメダメキングも見習ってほしいものだ。

 それはさて置き、僧侶ちゃんはどれを選択するんだろうか。戦士なら迷わず武器を求めるだろうし、マホツカは口にしたように魔法をチョイスする。やっぱ装飾品かな、無難に。

 そんなわたしたちを他所(よそ)に僧侶ちゃんの柔らかそうな唇が開く。

「私は……、私が求めるのは『魔法』です」

 そうそう。やっぱ魔法を選ぶよね…………!! ええーっ!? 魔法?

「これは予想外だな」

「むむ。賢者にでもなりたいのかしら」

『選び直しは出来ないぞ。よいのか、それで』

「はい」

 迷いのない力強い返事をする僧侶ちゃん。わたしが反対する義理はないけど、それにしても魔法とは意外だ。僧侶ちゃんも攻撃メンバーに参加したいのかな?

『それでは我が魂の一片を与えよう』

 精霊王が翼を大きく広げると同時に、荒々しい風が屋上に吹く。その風に乗った一枚の羽が僧侶ちゃんの体に接触すると、吸い込まれるように溶け込んでいった。僧侶ちゃんの全身が一瞬翠色に光り、金色の髪がふわりと(なび)く。

『汝に与えた力は魔法。その名は《嵐の天乱魔法》だ。一度味わった身、説明せずともどのような魔法かは分かるだろう』

「は、はい」

 昨日の戦いで使ったあの魔法ですか。本来の威力はどの程度なのか、ちょっと楽しみだな。

 それにしても案外あっさり終わってしまった。精霊の力なんてモノを授かるんだから、もっとド派手な演出を期待していたんだけど一瞬だったね。そんなんで魔法って使えるようになるんだ。

「試しに一回使ってみなさいよ。早く早くー!」

「やめておけ。これ以上塔を破壊するな」

 マホツカの誘いに対して僧侶ちゃんは自制を掛けた。戦士の言うとおり下手をすれば屋上の床全域が抜けてヘブンズダイビングしてしまいそうだ。

『勇者よ、本当にこれでよかったのか』

 精霊王が(おそらくわたしだけに)確認の声を聞かせる。

 ジャンケンをすると言い出した時に精霊王はこう警告した。わたし以外の三人は使命を背負って旅をしているわけではない。途中で力を持ったまま逃げられても知らんぞ、と。

 まったく、分かってないな精霊王さんは。そんな懐疑的な心でどうして仲間と一緒に旅ができようか。人の絆はそんな安いモノじゃないんだよ。

 それに、

「前の勇者はどうだったんですか?」

『フン。なるほど、似たもの親子ということか』

 その言葉を聞けてわたしは満足だった。

 何はともあれ、これで旅の目的の五分の一が終了したわけか。何だかちょっと考え深いな。つい先日まで学校の宿題に追われる毎日を過ごして来たのに、今や世界を旅する冒険だ。加えてそれに対して違和感なく受け入れられている自分が一番不思議だよ。

『時に勇者よ。力とは別にお前に授けたい物がある』

「はい?」

 何だなんだ、何ですか? 随分と太っ腹だな精霊王も。貰える物なら何だって貰いますよ。錆びた剣だろうが風化した剣だろうが。

『未熟者とはいえ、お前は仮にも勇者だ。然るべき武器を持つことが大事であろう』

 武器? 今武器って言った? よっしゃー! ついに念願の剣を装備する時が来たのか!

『私の片割れと思って存分に振るうがよい。持っていけ』


 《翠銀の槍》を 手に入れた!


「………………」

 槍……ですか。槍……ですよね。槍……なんだ。

『お前ならばすぐに使いこなせるようになるだろう』

「は、はあ。ありがとうございます……」

 わたしにとっては忌々しい気分しか沸き起こらない長槍を受け取る。翠銀色に輝く丈夫そうな槍だ。これでしばらく武器を購入する必要はないだろう。はぁ……。

 太陽が西へ沈もうとしている。青と白の世界に新しい色が混じろうとしていた。

 そんな景色を眺めた後、わたしたちは精霊王に別れを告げ、街へと戻った。

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