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ガールズトークRPG  作者: 加茂正路
第三章.嵐の塔編
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ⅩⅩⅤ.リターンマッチ

「みんな準備はいい?」

「問題ない」

「大丈夫です」

「いつでもいいわよ」

 昨日の惨敗が嘘のような活き活きとした顔。これからいざ精霊王へと再戦しに行くわけだけど、これなら心配なさそうだ。

 何だかんだで昨夜はたっぷりと睡眠が取れた。そして今朝は軽い朝食を済ませた後、戦いに向けて作戦の予行練習を行った。

 まずはマホツカが策有りと語っていた魔法の見極め。(いぶか)しげなわたしと戦士に「じゃあ試してみる?」と、誘いに対して安易に乗ってしまったのが間違いだった。さすがはマホツカ先生、魔法の腕だけは確かなようだ。

 次は自信なさそうだった僧侶ちゃんの法術の確認。これは戦士が被験者になったのだが、魔法&法術耐性が低かったのだろうか、戦士にはかなり有効だった。精霊王でも大丈夫?

 そして最後はわたしと戦士で連携を試してみることにした。今までどおり自由気ままに戦うよりかは、付け焼刃でも幾分かマシだろうという戦士からの提案だった。

短い時間ながらも、戦士の的確なアドバイスのおかげで実戦レベルにはどうにか達した。あとは実践するだけである。

 ところで、

「戦士の鎧はそのままでいいの?」

 精霊王の一突きによって戦士の鎧の右脇腹辺りは砕け散り、中の服が露出してしまっている。万全を期する意味でも今から買いに行ってもいいんだけど。

「ああ、これでいい。精霊王に勝つまではコイツと一緒だ」

 心配ないと言わんばかりに鎧を叩く戦士。そう言えば特注品って言ってたっけ。それなりに使い込んでいるようだから、愛着が沸いているのかも。

「勇者こそ、その剣でいいのか?」

「え、これ?」

 折れたブロンズナイフの代わりとして装備している骸骨騎士の()遺品のショーテル。鞘がなく危ないので刃を布で巻いている。

「いいよこれで。せっかく手に入れたんだから」

 本当はちゃんとした武器がほしいところだけど、この武器もまだ一度しか使ってないんだから全然オッケーだ。それにお金ないし。

 懸念事項も片付いたことだし、そろそろ行こう。

「それじゃあ準備万端ってことで。マホツカお願い」

「まっかせなさーい」

 ちなみに今は夕方前である。昨日なら霧が覆う小島に上陸したぐらいだろうか。こんなにノンビリしていられるのは理由があって、マホツカが一瞬で塔の屋上まで移動できる方法があると昨日の夕食後に言ってきたからだ。

「えーっと。確かこの辺に入れておいたような……」

 ゴソゴソとローブの中を(あさ)るマホツカ。やっぱり気になるな、いったい中はどうなっているんだろう。四次元の世界に繋がっていたりする?

「ん、あったあった」

 目的のブツが見つかったらしく、ローブの中から一枚の羽(?)を取り出した。

「じゃっじゃじゃーん! 《キマイラのつばさ》」

 黒、茶、銀、緑などなど様々な色が混在した奇妙な羽だった。

「ふっふふーん。これは一度訪れたことがある場所を思い浮かべると、そこまで一瞬で連れて行ってくれるけっこうレアなアイテムなのよ」

 ホント変な道具持ってるね。でもレアアイテムを惜し気もなく提供してくるなんて、どんだけ船に乗りたくないんだよ。

「そんな便利な道具があるとは、世界は広いな」

「そうですね。でも羽なのにどうして『つばさ』なんですか?」

 僧侶ちゃんの的確なツッコミをスルーしてマホツカは説明を続けた。

「あらかじめ伝えておくけど、転移じゃなくてあくまでも高速移動だからね。そこんところ理解しなさいよ。怖かったら目を(つむ)っておくことをオススメするわ」

 そんな、子供じゃないんだから……、

「んじゃいくわよ、それ!」

 マホツカが《キマイラのつばさ》を天へと放り投げた。空気抵抗によってふわふわと落ちる羽が輝き出し、わたしたちは光に包まれて…………、へっ?

「に、にぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!」

 ふわり、なんてレベルじゃない。火薬をコレまでか! と詰め込んだ大砲で撃ち出されたようにものすごい速度で宙へと舞い上がる。

「う、うひゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!」

 雲を突き抜け街が豆粒ぐらいの大きさに見える高度まで上昇すると、速度をそのままにベクトルが横へと変化した。

 マホツカが目を瞑った方がいいと言った理由が分かった。こ、怖すぎる――。

 がくんっと、足の裏が地面に接する感触。気が付けば昨日苦労して辿り着いた尖塔の屋上にいた。青と白の世界の景色は相変わらずだ。

「し、心臓に悪い……」

「だから言ったじゃない。怖いから目を閉じなさいって」

 ううぅ……、次から気を付けます。

「ところで、精霊王はいるのだろうか。何せ昨日の今日だからな」

「そうですね。でも普段は何をしていらっしゃるんでしょうか?」

「いるに決まってるでしょ。どうせ暇なんだし」

 暇って……。ああ、でも普段何しているんだろうね。もしかして世界の監視とか? でもそれって自宅警備員と大差ないよね。そう思うとそんなニー(トリ)に負けたわたしたちって……、

『誰が暇鳥だと?』

 はうわっ!?

 条件反射的に後ろを振り返るといつの間にか巨鳥が空を舞ってわたしたちを睥睨(へいげい)していた。不意な一言に嫌な汗が背筋を伝う。くそっ、派手な登場演出はなかったのに。

『お前達、何しに来た?』

「ふん。訊くだけ野暮でしょ。アンタと戦う以外にこんなところに顔出すわけないじゃない」

『何? 私と戦うだと?』

 さすがに呆れた口調だった。そりゃそうだ、昨日フルボッコにしてやった相手が一日経たずして再戦しに来たのだから。

『腕を磨いて来いと言ったはずだが、何かの冗談か?』

「冗談ではありません。本当に再戦しに来たんです」

「そーよ。ワタシたちが本気を出せばアンタなんか瞬コロだわ!」

 それはさすがに言い過ぎでは……。

『フフ……。そうか、了承した』

 瞬時に鳥が翠銀(すいぎん)の騎士へと変態する。その手には忌々しい長槍が、陽の光を美しく反射させていた。

「どうやらもう少し痛い目に遭いたいらしいな」

「お言葉ですが、その台詞は戦った後で言ってください」

 戦士が鋼の剣を鞘から引き抜く。

「なるほど、ならばせいぜい気絶だけはしないでくれよ。今度はその聞かず耳にしっかり入れるようにするのでな」

 無風だった屋上に冷たい風が吹き始める。まるで狂気を含んでいるかのように荒々しく、気を抜けば切り裂かれるような突風が。

「それではいくぞ、勇者よ!」

 再戦、今度は勝つ!

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