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ガールズトークRPG  作者: 加茂正路
第三章.嵐の塔編
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ⅩⅩ.一方通行(デスルート)

 ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な、天の神様の言うと――っ! …………やっぱこっちだね。何でもかんでも神様の判断に任せるのはよくない、うん。

 でも自己主張ばかり言い続けるのもよくないよ、ね。

「私は反対だ! 密室に入るなど罠にかかりに行くようなものだ! 階段でいくぞ!」

「冗談でしょ!? 上を見なさい上を! いったい何段あると思ってるのよ! エレベーターで行くに決まってるじゃない!」

 ひとつの目的地に対して与えられたのは二つの選択肢。さて、どちらを選ぶべきなのか。

「こんなに古ぼけているんだぞ、途中で動かなくなったらどうする! 支えているロープを伝って降りろとでも言うのか!」

「階段だって半分より上が崩落しているなんてオチだったらどうすんのよ! ノコノコ引き返せとでも言うの!」

 水と油、炎と氷、キンベヒとメガテリのようだ。決して相容れない関係。どちらも妥協するつもりは欠片もないようだ。

「お二人とも譲りませんね」

「だろうね。こればっかりは」

 わたし的にはマホツカに一票かな……とは言わない。多数決では戦士は納得しないだろう。仮に結果がエレベーターになったとしても一人階段で行くとか言い出しそうだ。

「それにしても高い塔ですね……」

 命からがら逃げ込んだ塔の内部は非常に簡素な造りだった。エントランスもなければパーティションもなく、せめてもの格子窓がぽつぽつと低い位置に点在しているだけ。

 瀕死状態の戦士とバッドステータス中のマホツカが休息している間に僧侶ちゃんと手分けして徘徊してみたんだけど、隠し部屋もなければ観賞用のオブジェクトの類もない。さらに視線を上階へと向けても吸い込まれそうな黒い方形が見えるだけ。おそらくわたしたちが今いる一階から最上階までは完全な吹き抜け構造のようだ。中央に一本の太い柱がなければ、縦に細長いカボチャのくり抜きと変わらない。

 そして最上階まで行く方法なんだけど、見たところ二つのルートがある。ひとつは壁に沿って螺旋(らせん)状にどこまーでも段を増やし続ける無機質な階段。そしてもう片方が、こんな場所には似つかない鉄製の扉のエレベーター。銭湯の煙突のようにまっすぐ伸びる柱がそれだった。

 普通に考えれば後者で行きたいところだけど、ここは手強いモンスターが徘徊する場所(ダンジョン)である。エレベーターの中に入ったが最後、何が起こるか分かったものじゃない。戦士でなくとも疑心暗鬼になる。それに、はたして最上階まで運んでくれるかどうかも甚だ疑問だ。発進と同時に落下したりして。

「マホツカ、どうしても諦めないと言うのか!」

「当たり前でしょ! 脳筋バカのトレーニングじゃないんだから。こんな長い階段登りたくないわよ!」

 二人ともさっきまで死にそうだったのに元気だね~。

 しかしこのままでは(らち)が明かない。何かいい解決方法はないだろうか。

「皆さん、ここはひとつコインで決めませんか」

 火花を散らせながら睨み合う二人の下に金色のジャッジが舞い降りる。

「「コイン?」」

 僧侶ちゃんは二人の視線が自分に向けられるのを確認すると、一枚の銅貨を取り出した。

 何の変哲もない一〇シンヨークセント硬貨だ。裏には十の数字が、表にはシンヨーク中心街の摩天楼(まてんろう)の風景が刻まれている。あ、よく見たらギザ十じゃん。

「つまりはコイントスってこと?」

「なるほど。シンプルでいいな」

「ふふん、僧侶な考えじゃない。神のみぞ知るってことね」

 マホツカはともかく意外なことに戦士も食い付いてきた。両者とも負けず嫌いなんだから。まあ、無血的解決手段が採択されてなりよりだ。

 僧侶ちゃんはコインに何も仕掛けがないことを二人に確認してもらう。

 と、その間になぜか屈んでタイル状の床を素手で入念に触れる僧侶ちゃん。何かの下準備?

「表が階段、裏がエレベーターでいいですね」

「ああ、問題ない」

「それでいいわよ」

「では、いきます」

 深呼吸を一拍置くと、僧侶ちゃんはコインを天に向けて、爪が鏡のように綺麗な親指で弾く。くるくると美しい回転をするコインはやや前方に飛んだ。僧侶ちゃん、コイントス上手だね。

 物理法則に従って放物線を描いた後、床に落ちたコインは三回バウンドして戦士とマホツカのちょうど中間で勝敗を決定させた。その結果とは――、

「う、裏……だと?」

「いぇい! ワタシの勝ち!」

 ビシッと腕を高々と掲げるマホツカと、OTL(がっくし)な戦士。

 正直ほっとした。戦士の気持ちは理解できるが、階段はやっぱないよ。だってこの塔軽く千メートルはありそうなんだもん。僧侶ちゃん、ナイス♪

「主よお許しください。私は己の願望のために虚偽な行いに手を染めました……」

 いつも笑顔を絶やさない僧侶ちゃんが珍しく思い詰めた顔になっていた。なんで?

「僧侶ちゃん? どうかしたの?」

「え!? あ、はい。何ですか勇者しゃん? あ……」

 ゆ、ゆ、ゆ、勇者しゃん!? 『しゃん』だと!? うひょー、噛んだ僧侶ちゃんめっちょかわいいー! やっぱ天使か神の使いかに違いない! いや、むしろ(ゴッド)!!

「そ、僧侶ちゃんは階段ん、の方がよかたのー?」

 ニヤける顔をどこまで我慢できているか分からない。いまさらいっかなー。

「いえ、私はどちらでもよかったです。本当に……」

 う~ん、さすがは僧侶ちゃんな意見だ。イカサマなど縁もゆかりもない。

「それじゃ約束どおり、ベーターで行くわよ」

「ぐぐ……、負けは負けだ。いたしかたがない」

 心底悔しそうな戦士であったが、勝負事には律儀なのか、素直にエレベーターの中に入ってくれた。

 二人に続いてわたしと僧侶ちゃんも開きっぱなしにしていた大人十人ぐらいが乗れるそこそこ広い箱へと入る。シンアークで宿泊した高級ホテルとそれほど変わらないな。まあ、あっちの方が無駄な装飾のせいでキラキラうるさかったけど。

「えーっと、ボタンはこれかしら」

 ボタンと言っても正方形の何も書かれても描かれてもいないのが一つしかない。ここと最上階を結ぶだけだから、マホツカが押したのは「閉」…………あれ、「開」は?

 ススッと鉄製の扉が左右から無音で閉じる。そしてゆっくりと上へと向けて動き出すと、緩やかな加速度運動を開始した。

「思っていたより静かだね」

「それに速いです。ほとんど揺れも感じませんし」

「ボロイ塔のくせしていいモン完備してんじゃないの。これであっという間に精霊王の目の前ね。ふふん、首を洗って待ってなさい」

「危険だ危険だ危険だ危険だ危険だ、エレベーター危険だ……」

 (うつむ)きながら壁をトツトツと指で叩く戦士の姿が怖すぎる。昔何かトラウマな出来事でもあったのかな……。

 ――ッと!!

「へっ? な、何よ?」

「きゅ、急に速度が上がりましたね……? きゃっ!!」

 安全基準を超えた速度で急上昇するエレベーターが急停止した。突然の衝撃にバランスを崩し、全員その場に倒れこむ。

「イタタタタタ、何よいきなり!」

「もう到着したんですかね?」

「ならいいんだけど。まだ半分も上ってないような気がする……?」

 鉄扉が音もなく左右に開、く? そこでわたしたちが見た光景とは――、


 骸骨騎士が 現れた!

 骸骨騎士は いきなり襲い掛かってきた!


「モ、モンスター!」

 外で遭遇したローリングな骸骨さんが一体。まるで待っていましたと言わんばかりに、無遠慮に曲刀を真横に()いできた。


 骸骨騎士の 攻撃!

 しかし 扉に阻まれて 攻撃が届かない!


 あ、危ないところだった。狭いエレベーター内は逃げるスペースなどない。早く敵を押し戻すか逆にエレベーターに閉じ込めるしかない――と!!


 骸骨騎士の 連続攻撃!

 戦士は 小手で 攻撃を受け止めた!

 戦士の カウンター!!

 クリティカルヒット!!

 骸骨騎士に 50のダメージ!


 さっすが戦士。でもまだ倒せないなんて、ここの敵レベル高くない?

「くっ、いい手応えだったんだが、まだ駄目か」

 戦士ばかりに働かせるわけにはいかない!

「こんなろっ!」

 わたしは新武器のショーテルを骸骨騎士の脳天にお見舞いした。


 勇者の 攻撃!

 骸骨騎士に 12のダメージ!

 骸骨騎士を 物理攻撃だけで なんとか倒した!


 何だか説明がいちいちくどくなってきたような……。オンオフできないの、これ?

 敵の消滅が完了するとドアは静かに閉まり始めた。降りた方が良さげでは? と頭をよぎったが、あまりの唐突さに反応が遅れる。

「ふー、何とか切り抜けられたね」

「ああ、一体なら冷静に戦えば勇者と私でもどうにかなりそうだな」

 とは言っても、ほとんど戦士の手柄なんだけどね。

「まったく、忙しい攻撃ね。もうちょっとスマートに戦えないの?」

 壁を背もたれにしてくつろいでいるマホツカ。自分だって力任せのゴリ押しじゃん!

「それにしてもいきなりでしたね。まだあるんでしょうか?」

「むーん、高さを考えるとそうかもね」

「だから私は言ったんだ! 階段で行くべきだと――」

 ゴトンッ! と再び悪魔の(おり)が停止する。また戦闘ですか……?


 骸骨ゴリ押し剣闘士が 現れた!


「うそだっ!!」

「ど、どうした勇者?」

 実在したのかこの職業……。見た目は骸骨騎士と寸分違わず、唯一異なるのは武器がショーテルではなく大型の直剣――おそらくグレートソード――を装備していた。

 とはいえ、強さのほどは未知数である。もし骸骨騎士以上のレベルなら苦戦は免れられない。できればマホツカに頼りたい状況だけど、ここで魔力切れにはさせたくない。

「マホツカ、普通の魔法は使えないの? 《ファイアボール》とか《ライトニング》とか」

 とりあえず小説とかに出てくる初級魔法を口にしてみた。

「使えるには使えるけど、威力が低いからつまらないじゃない。やっぱハデにいかないとね」

 いいよ面白くなくっても。敵さえちゃんと倒してくれれば。

 どうこうしているうちに骸骨ゴリ押し剣闘士がゆっくりと剣を正眼に構えた。何かくる!?

「やらせるかっ!」


 戦士の 攻撃!

 骸骨ゴリ押し剣闘士に 145のダメージ!

 骸骨ゴリ押し剣闘士を 倒した!

 骸骨ゴリ押し剣闘士は どうやら 生前カルシウム不足 だったようだ!

 骸骨ゴリ押し剣闘士は 見せ場なく 消えていった!

 骸骨ゴリ押し剣闘士 フォーエバー!


 知らん、そんな裏設定など。

 敵の消滅を狙ったタイミングでドアが冥府の門のように問答無用で閉ざされる。どうやら降ろしてくれる気はないらしい。以前異国ノ地物産展で食べた《ワンコソバ》とかいう食べ物みたいだ。

「随分とあっさり倒せたな? 手応えは薄い……いや、脆かったのに」

「それに骨がボロボロ砕けるように消えていきましたね」

「アンタの攻撃が骨身にこたえたんじゃないの? 骨だけに」

 気付いていたけど、みんなはあのメッセージは見えないし聞こえないんだね。やっぱこれも勇者のスキルなのだろう。

 ()に落ちない表情の戦士だったけど、わざわざ説明することもないな。たぶんあのモンスターは二度と出てこなさそうだし。

 とまあ、今回も無事勝利を収めることができたんだ。でも二度あることは三度ある……!

「またか……」

 予感的中。三たび死に神のゆりかごが動くのを止める。だけど今までよりも緩やかに停止して、「チンッ」というここで聞くと少しマヌケな到着音が鳴った。

「今度はどんな敵なのよ……」

 マホツカもさすがにうんざり気味のようだ。

 こういうのは回を重ねる度にグレードアップするんだよね。はたして三回目は鬼が出るか蛇が出るか――、

「イラッシャイマセー! イイ品揃エテマスヨー!」

「「「「……………………」」」」

 張り詰めた緊張の糸がぷつんと切れた音がしたような気がした。

 骸骨騎士のミニバージョン、とはいっても顔の大きさはそのままで胴体が四分の一サイズ。愛嬌のある声音の主が露天商のごとくアイテムを布の上に広げて接客してきた。はい?

「ソコノカワイイオ嬢サン方、コノ腕輪ナンテドウデショウカ? 装備シタダケデ経験値ガ二倍ニ――」

 ピシャリ!!

 キョトンとするわたしたちを気にせずカタコトの言葉で商品の説明をするチビ骸骨だったけど、なぜか扉が見なかったことにしろと言わんばかりの勢いで閉まる。

「な、なんだったんだ今のは?」

「新手の商売ですかね?」

「こんな場所で儲かるのかしら」

 その後エレベーターが止まることはなかった。

 そしてわたしたちは最上階へと辿り着く。

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