ⅩⅥ.ガールズ・飲み会!
「「「「カンパーイ!!!!」」」」
(ぐび……ぐび……ぐび……ぐび……)
結局歩いてシンアークまで戻ったわたしたちは、祝勝会として駅の近くの《オリエンタル・ライス》という東洋料理の食事処で飲み会を開くことにした。財布がちょっと痛いな……。
「ぷはぁ! ひと仕事終えたあとはこの一杯に限るわね」
「大げさだなマホツカは。お酒じゃないんだから」
檜造りの建物は、椅子やテーブル、料理用の皿なども全て檜製という凝った趣向だった。照明が薄暗い店内には休日だというのに若い女性客で賑わっている。
「いい店だな。雰囲気も悪くない」
「そりゃそうでしょ。ワタシオススメの店なんだから」
マホツカは結構遊んでいるイメージがあるよね。こんな小洒落たお店を知っているなんて同年代にはいないに等しい。
「この食べ物は何でしょうか? 独特な味がします」
「それは《ゴボーのカラアゲ》ね、たしか」
「こっちの酸味の効いたご飯とお魚は?」
「そっちは《メグロズシ》っていうサンマのスシよ」
ゴボー? サンマ? 見たことも食べたこともない食材を使った料理ばかりにどんどん箸が進む。どれも文句なしに美味しい。
「さっきから随分と上機嫌だな、マホツカ」
「ワタシはいつだってこの調子でしょーが」
いつだってと言われても、よくよく思えば出会ってから半日も経ってないんだよね。戦士と僧侶ちゃんもだけど、意外と波長が合っているよねわたしたちって。類は友を呼ぶ?
「そう言えばマホツカが頼んだ飲み物って何なの?」
わたしと僧侶ちゃんがオレンジジュースで、戦士はウーロンティーとかいうほろ苦いお茶。そしてマホツカはシュワシュワしているハイなんとかっていう変な響きの名前の飲み物だった。
「んー? これはハイボールよ」
「ハイボール?」
「初耳ですね」
「どんな飲み物なんだ?」
「聞くが遅し、飲むが早し! まま、とりあえず飲んでみなさいな」
透明なグラスに入った琥珀色の液体を口に含むと、喉元で空気が弾けた。
「炭酸か……」
あまり好きじゃないんだけど、なぜだろうか不思議と喉にスッと入っていく。
「私にも飲ませてくれないか」
「あ、ごめん。全部飲んじゃった」
「ダイジョブダイジョーブ! 飲み放題のコースにしといたから。店員さーん! ハイボール追加で」
「僧侶ちゃんは?」
「炭酸は苦手なので遠慮しておきます」
《浴衣》というこれまたユニークな衣装を着た女の店員さんが追加注文したハイボールを三人分運んできた。
そして地獄への扉が開かれる。
一杯目。
「あの映画の女優、『まだ二十歳でーす』って言ってるけど、あれは絶ッ対もっと歳くってるでしょ! 顔が化粧でヤバくない?」
「確かに、あれでわたしと五つしか違わないなんてありえないね」
「演技は上手いが、あれで高校生の役を演じられるのは私も見ていて苦しかったな」
「デショデショ! ファンの男どもが『萌えー萌えー』って叫んでるけど、事実を知ったらどうなることやら。見物だわ」
「化粧という名のガード魔法が崩れるのはあと一、二年だね」
「同じ事務所に十七歳の新人がいるだろ? 彼女の人気の上昇に反比例してそのうち忘れ去られていくのだろうな。私は演技派好きだから応援していたんだが、残念だ」
「皆さん? 何だかテンションが高いですね……」
三杯目。
「精霊も期待外れだったな。私の剣の一撃で怯むとは何たる情けなさ!」
「ホントだよ! わたしの出番がこれっぽっちもなかったじゃない! どういうこと!?」
「次会いに行くのって、嵐の精霊王(笑)? ワタシの魔法で瞬コロにしてあげるわ!」
「いいや、今度は私が活躍する番だな。マホツカばかり目立たせん!」
「戦士に手柄は渡さないよ。勇者はわたしなんだから、わたしがトドメを刺す!」
「無理無理~。物理攻撃の限界を知りなさいお二人さん。《きゅーそさめぐい》? なんてチートアイテムでも装備しない限り魔法には勝てないわよ~」
「磨き上げた剣技はあらゆる力を凌駕する! 私の師の教えだ、否定はさせんぞ!」
「二人してちょっと強いからって。すぐに追いついてあげるんだから」
「それまでに魔王が生きていればいいけどね~」
「何をー!」
「あ、あの、皆さん……?」
五杯目。
「シンヨークには全ッ然イイ男がいないわよね! かわいい女の子はこ~んなにいるのに。どうなってんのよ! 世界のイケメン分布が狂ってるんじゃないの!?」
「顔はどうでもいいが、近頃の男児は軟弱だ! 鍛錬をしろ鍛錬を!」
「うちの学校のクラスの男子もさっぱりだよ。覇気がないっていうか、これが流行りの草食系ってやつ? って感じばっかりだし」
「男はみんな狼とかって言うけど、シマウマ以下じゃない! こっちから食ってやろうか?」
「草食でも雑食でもいいから、女の私相手に腰が引けているとは、まったく軟弱だ!」
「戦士~、その言い方はエロいんじゃないの~♪」
「さっすが戦士さん、レベルが違いますね!」
「み、皆さん、顔が真っ赤ですけど大丈夫……ですか?」
?杯目。
「魔法使いだからといってローブなどという紙防御の装備では先が思いやられる、やはり金属の鎧が一番だ! ここ数年で女性戦士が増えてきたからな、軽量でも高い防御性能を有した品はたくさんあるぞ! どうだ、鎧を買わないか?」
「む~ん、もう食べられない……」
「そうか食べられないか……、だが鎧を食べなければ手強いモンスターとの戦闘は厳しくなるばかりだ、シンヨークに品揃えの豊富な店があるんだ、店主が無類の鎧マニアでな、何でも毎晩鎧を食べているほどだ」
「せ、戦士さん、話がおかしくなってま――ひゃっ?」
「にゅーん、僧侶ちゃんかわいい~、頬なんてぷにぷにしてるしー、ずっと抱いていたい…………う、うう……でも、でもわたしより胸がおっきいなんて! わたしってやっぱ男なのかな……うわ~~~ん」
「ゆ、勇者さん、く、苦しいです……」
「考え直せマホツカ! 鎧は装備する物じゃない、脱ぐ物だ……zzz」
「む~ん、もう脱げない……zzz」
「僧侶ちゃんはわたしのヨメ……zzz」
「み、皆さん! 寝ないで下さいー!」
…………会計後。
「うえっ……、気持ち悪ッ……」
「ああ、頭が割れそうだ……」
「ワタシとしたことが、たった十数杯で落ちるなんて……」
「未成年で酒を注文するな! マホツ――!?」
戦士が戦死した。
「あの店は年齢チェックしないからね。気兼ねなく飲め――!?」
マホツカはマジックポイントが枯渇した。
やばい、わたしもそろそろ限界が……。
「み、皆さん大丈夫ですか!?」
「む、無理かも……」
「……列車はもうないのか。なら早く宿を取らなくては……」
「マホツカ……近くに宿屋はないの……?」
時刻は既に深夜の域だ。列車はもちろん人っ子一人歩いていない。
「ふ……ふふん、任せなさい! アルフォンの《アルナビ》機能を使えば宿屋の場所は当然のこと空き部屋数のチェックから宿泊の予約までできるんだから」
さすがはマホツカ。早くベッドの上で横になりたい……。
「(タタタタッ)…………? (タタッタ)……! (ダダダダダ)……むむむ?」
「どうしたの? ここから遠かったりするとか?」
「…………ない」
「何がだ?」
「部屋が空いてる宿屋が一つもないのよ……」
な――、
「「なんだってーー!?」」
まさかの二晩連続野宿ですかー!? 素晴らしいな~魔王討伐の旅……。
「いつかは覚悟していたが、まさか旅立って初日にしてとは……」
「ヤダやだヤダ! こんな最悪の気分で野宿なんて、死んだ方がましだわ……」
血眼になってアルフォンを指で連打するマホツカだったが、願いは叶いそうになさそうだ。
「あ、あの」
「何、僧侶ちゃん?」
おずおずと何か言いたげな僧侶ちゃん。その愛くるしい顔だけが唯一の癒しである。
「宿屋がないならホテルに泊まればいいんじゃないですか?」
………………、
「「「!?」」」