ⅩⅤ.更に戦う少女達
風の精霊が 現れた!
荘厳な音楽が流れてきそうな威圧感が風に乗って部屋に吹き荒れた。今までの戦闘とは雰囲気が一線を画している。これが『ボス戦』というやつなのか。
洞窟で戦ったモンスターは、ほぼわたしと戦士の攻撃だけで倒してきた。しかし今回はそんな単純な戦法では勝てないだろう。物理、魔法どちらが有効なのか、精霊はどんな攻撃を仕掛けてくるのか、まずは相手の戦術を見極めないと勝機はない(に違いない)。
「ビビってどうすんのよ! 先手必勝でいくわよ!」
「でも、まずは相手の出方を窺わないと……」
いきなり広範囲の魔法攻撃なんてパターンもありえるし、戦士以外は防御が無難かな。
「精霊が相手だからといって、臆しいては勝機を逃すぞ!」
「そうです勇者さん、回復は私に任せて全力で攻めてください!」
「そうよそうよ! ガンガンいくわよ!!」
みんな割りと好戦的だな……。特に戦士なんて普段は慎重派なのに、戦闘になると豪気になるんだね。
浮き足立ってないか心配だけど、みんなの言うとおり及び腰ではジリ貧になるのは目に見えている。回復はしたばかりなので、まずは遠慮なく攻撃しますか。
「どうしたのかしら、早く掛かって来なさい」
精霊は余裕の表情でふわりと大地に足を着けた。仕掛けてくる気配は微塵も感じられない。まずはわたしたちのレベルを計るため「様子を窺っている」のであろう。
なら言わずもがな――、
わたし 戦う
戦士 戦う
僧侶ちゃん 防御
マホツカ 魔法
「一気に畳み掛けるよ!」
攻撃は最大の防御なり、だ!
「私から行く! はああぁぁぁぁぁあッ!!」
裂帛の気迫が込められた戦士の鋼鉄の一太刀が魁となって精霊にヒットする。
「ぎゃっ!?」
戦士の 攻撃!
クリティカルヒット!!
風の精霊に 207のダメージ!
精霊とはいえ人間の姿をしている者に剣での攻撃は躊躇いが生じそうだけど、戦士はモンスターを斬る時よりも力強く、そして鋼の刃を全力で振り下ろした。
「――何なの、この威力は……!?」
精霊の肉体は魔力で構成されているのだろうか、戦士の斬撃は精霊の体をすり抜けた――のだけど、苦悶を露にするその反応からダメージはちゃんと与えているっぽい。
どうやら物理攻撃は通じるみたい――んだけど、気になることがある。まだ初撃であるのに随分と精霊は苦しそうだ。何かのフェイクだろうか? それとも物理攻撃が弱点だったりする?
「とっておきでいくわよ!」
間髪入れずにマホツカの魔法詠唱が開始される。
「ちょ、ちょっと待ちなさ――」
「凍てつく波動よ、力の結晶となりてエロいオンナを押し潰しなさい!!」
相変わらずな変な文言。その場のノリで考えているとしか思えない。そもそも口に出す必要性はあるの?
「降り注げ! 《アイスガ・メテオ》!!」
おわっ!?
一、二、三――――全部で八個、詠唱の終わりと同時に巨大な氷の塊が極寒の冷気を伴って部屋の上空に生成された。広い空間だったけど氷塊はぎゅうぎゅう詰めの状態だ。避ける隙間などどこを探しても無い。
マホツカは 魔法を唱えた!
氷の流星が 風の精霊へと降り注ぐ!
一個目。
「ぎゃん!」
風の精霊に 84のダメージ!
二個目。
「どはッ!?」
風の精霊に 87のダメージ!
三個目。
「げふッ!!」
風の精霊に 83のダメージ!
四個目。
「ぬはーーー!!」
クリティカルヒット!!
風の精霊に 178のダメージ!
風の精霊を 倒した!
五個目?
「ちょっ!?」
風の精霊に 89のダメージ!
風の精霊を 倒した!
……六個目。
「まだ――」
風の精霊に 79のダメージ!
風の精霊を 倒した!
七個目……。
「つづ――(ぐちゃ)」
風の精霊に 91のダメージ!
風の精霊を オーバーキル!!
…………。
「…………(べちょ)」
クリティカルヒット!!
風の精霊に 165のダメージ!
風の精霊を フルボッコにした!!
「ふふん、見事に全部命中してくれたわね」
ひ、酷ぇ…………。
「完膚なきまでにとは、まさにこのことだな……」
「そ、そうですね……、精霊さんは生きているんでしょうか……?」
それは心配だ。最後なんて「べちょ」だからね。スライムの死体みたいなことになってなければいいんだけど。確認するのはちょっと嫌だな…………あ、氷がなくなった。
氷塊の下敷きになっていた精霊は息絶えそうな虫みたいにピクピクと動いていた。よかった、まだ生きてた。もしものことがあったら目的が達成できなくなっちゃうからね。
「あ、あなた達……、少しは手加減ってことを知らないの…………」
髪はぐちゃぐちゃ、服はズタボロ、全身泥塗れの姿を見ると確かに申し訳ない気分にはなる。
けれど、悠然と構えながら全力で掛かって来なさい的な流れにしたのはそっちの方なんだけどな。まあ、二人レベルがおかしいのがいるからね。
とはいえ、勝ちは勝ちだ。
「勝てば官軍なのよ、この世は。それで何くれるんだっけ?」
「精霊王に会うためのアイテム? になるのかな」
漠然だね。わたしたちは未だ地面に這い蹲っている精霊へと視線を落とした。
「ムカつくけど、負けたのは事実だわ。それじゃ受け取りなさい」
見るも無残な姿に成り果てた精霊だったけど、それはそれとして約束は守ってくれた。
一枚の薄緑色の羽がわたしの手の平へと舞い降りる。
《風の精霊の羽》 を手に入れた!
「それがあればわたし達の主君である《嵐の精霊王》様の所に辿り着けるわ」
優しい輝きを生み出している以外はただの鳥の羽と変わりない。ところで何で羽なの?
「確かに渡したわよ。せいぜい精霊王様に全滅させられないよう腕を磨いておくことね」
そう言い残して精霊は消えてしまった。あっさりしてるな~。
「立つ鳥跡を濁していったわね。鳥じゃないけど」
「次は《精霊王》か。また戦うことになるようだな」
先のことは気になるけど、まずは一段落である。
「目的も達成できたことだし、帰ろっか」
来た道を戻る。山登りの下山もそうだけど、これが一番面倒なんだよね。
「パッと帰るとかないのかしら」
「何だそれは?」
「洞窟からの緊急脱出魔法ですか? それならマホツカさんが詳しいのでは?」
「そうじゃなくってー!」
?
ブツクサと文句を発するマホツカ。よく分からないけど、歩いて帰る以外の方法はないようだ。
一抹の高揚感を残しつつ、わたしたちは帰路に就いた。