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ガールズトークRPG  作者: 加茂正路
第二章.精霊の洞窟編
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ⅩⅣ.風の精霊

 洞窟の最奥部は、暫時地下にいることを忘れてしまうほど広くて明るい空間だった。降り注ぐ光の源を仰ぎ見ても天井が視認できない。

「待っていたわよ、勇者一行」

 !!

 小石一つ転がっていない部屋に突如として薄緑色を帯びた風が舞う。その風が部屋の中央上空で球状に纏まると、光の粒を散らしながら弾け、中から女性らしき人物が現れた。

「あなたが……精霊?」

 それ以外の返答をされても困るのだけど、それ以外の言葉が浮かばない。たとえ語彙が豊富だったとしてもはたして口に出せたかどうか自信がない。

 わたしはそれほどまでに目の前で腕を組む堂々とした姿に圧倒されていた。

「ご名答。わたしがこの洞窟の主でもある風の精霊よ」

 自身の身長よりも長い髪が柔らかい動作で風に(なび)く。均整の取れた顔や細い体のラインは絵画を彷彿とさせる美しさだった。僧侶ちゃんが「可愛い」なら、精霊は「麗しい」だ。男でなくとも目が奪われてしまう。

 だがしかし――、

「エロいわね」

 マホツカの感想には同意見だ。上半身には曲線を多用した柄の布が胸(かなり大きい!)だけを覆うへそ出しルック。下は踊り子が穿()いていそうな面積の小さい衣装に、足首までの長さの腰布を巻いているだけだった。

「どうですかマホツカ先生、あの服装は?」

「ないわね。この洞窟にあの格好は露出魔に間違われるわ」

「ですよね~、あれじゃ風引きますよね」

「風の精霊だけに『風を引く』か!?」

「「ははははははははははは!」」

「お二人して何の話をしているんですか?」

 それが、わたしたちが初めて出会った精霊の風姿(ふうし)だった。もうちょっと獣人みたいなのを予想していたんだけど、まんま二十歳前後の人間の女性にしか見えない。

「あの、私たちが訪れることを知っていたのですか?」

 わたしとマホツカがファッションチェックしているのをスルーして、戦士が敬語を用いて質問をする。一応相手は『精霊』なんだよね。ついつい大胆な服装に気を取られてしまった。さすがは人を魅了すると言われている精霊である。あなどれん!

「当然よ。あなた達がシンアークに足を踏み入れた時から存在を感じていたわ」

 まじですか。僧侶ちゃんもだけど、『聖なる波動』とか『邪悪な気配』とかって、どうやったら感知できるようになるんだろう。やっぱ滝に打たれる修行とかですかね?

「では私たちの目的もご存知なのですか?」

勿論(もちろん)よ。魔王が復活したみたいだし、人間の力だけでは倒すのは難しいでしょうね」

 なんと魔王のことまで認識していたとは。やはり侮れん!

 と、いうことは? 魔王討伐の旅はドッキリじゃなかったんだ。まさか精霊があのバカコンビのために口裏合わせるとは思えない。

「ねえ、ワタシも質問していい?」

「何かしら」

 マホツカは敬語なんて使わない。

「どうしてこんな辺鄙(へんぴ)な洞窟に住んでんの?」

 …………。

 いや、まあ、気になるけどさ。精霊には精霊の事情ってのがあるのでは――、

「べ、別にいいでしょ! どこに住んでいたって!!」

 あれ? ものすごく動揺している。高貴な表情のデッサンが崩れて、ムキになった子供のような顔で怒鳴ってきた。

「精霊王様もわざわざこんな辛気臭い洞窟で勇者を待っていろだなんて、別に街の酒場とかでもいいじゃない。まったく、これだから頭の固い昔者は……」

「あの……どうかしましたか?」

「え!? ああ、何でもないわ、何でも!」

 ならいいんだけど。でもドス黒い『気』の混じった(こと)()を聞いてしまったような……。

「ふ~ん、まいっか。あともう一つだけ訊いておきたいことが」

「それで、わたしたちの用件は叶えてくれるのでしょうか!」

「あっ、ちょっと勇者、邪魔しないでよ!」

 これ以上マホツカには質問させないようにした方が良さそうだ。ドロドロの関係は人間だけでお腹いっぱいです。

「叶えるかどうかは、あなた達の実力次第ってことになるわね」

 やはりそうですか。向こうさんもやる気満々である。

「見たところ、戦士に僧侶に魔法使いかしら? バランスの取れた無難なパーティーね。前回とはえらい違いじゃない」

「前回?」

 それはもしや、わたしの父親のことではなかろうか。

「以前の勇者さんはどんな人たちだったんですか?」

 うわっ、すごい気になる!

 あ、でも十五年前っていったら職業もそんなに数がなかった時代だし、案外わたしたちと大差なかったりして。

「それがね、勇者一人に《遊び人》が三人のパーティーだったのよ」

 !?

「最初は何か策でもあるのかと勘繰りながら戦っていたんだけど、遊び人達がずーーーーーっと遊んでばっかりでね。懸命に一人で立ち向かってくる勇者が可哀想だったわ。でも手加減するわけにもいかないから、結局勇者が倒れてゲームオーバ~。数日後に鍛え直して再戦に来たわ。パーティーはそのままだったから、ほとんどタイマン勝負だったわね」

 …………。

「それは随分と個性的なパーティーですね……」

「そうだな、何か理由があったのだろうか……」

「変な血が受け継がれてなければいいわね……」

 左右後ろ、三人の視線に射抜かれる。

 そっか、わたしを勇者だと知っていたんだから、前回の勇者がわたしの父親だということも当然ご存知のことで。はは…………、

 てか何だよ《遊び人》が三人って! バランスも何もあったもんじゃないよ! てゆーか誰も反対しなかったの? 仲間に選ばれた方だってやめとけって言えよ! ってかカジノで所持金スッたのそれが原因じゃん!!

 まだ見ぬ父親の姿……、一生このままでいいかもしれない……。

「それで、戦う覚悟は出来ているのかしら? そこらのモンスター達と一緒にしていたら痛いじゃ済まないわよ」

「はい、望むところです!」

「私も、いつでもいいですよ」

「アンタこそ覚悟はできてるんでしょうね! 悪いけどワンターンで終わらせてあげるわ」

 父親の醜態のことは忘れて、今は戦闘に集中だ。

 えっと回復アイテムよし、装備品よし、あとはセー……、

「威勢だけはいいようね。では勇者、いくわよ!」

「ええ! 心の準備がまだ――!!」

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