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ガールズトークRPG  作者: 加茂正路
第二章.精霊の洞窟編
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Ⅹ.精霊の洞窟

 《精霊の洞窟》――精霊が住むと言われる洞窟は、シンアークから北へ徒歩で数分の場所にある。陽の光が届かない鬱蒼(うっそう)とした森の中に突如として鳥の頭のような形をした小山が、ぽっかりと口を開けて待ち構えていた。

 地元ではモンスターが出現する危険な洞窟という認識で、許可がなければ洞窟はもちろんのこと洞窟のある森にすら入れてもらえない。

 しかし、そこで役に立つのが《シンヨーク王家の証》である。森へと続く北検問に駐在する兵士の人に見せたところ、お役所仕事とは思えない迅速な対応で許可が下りたのだ。まさに最強のアイテムのひとつに数えられる代物である。

 駐在兵士の人たちの話によると、どうやら洞窟は過去何回かに渡って探索隊が派遣されたらしく、当時作成した内部の地図を貰うことができ、またモンスターは低レベル級しか出現しないという情報も得ることができた。

 これで心配事は何ひとつ残っていない。街の道具屋で回復アイテムやらを購入した後、すぐさま洞窟へと向かったわたしたち。

 しかし、辿り着いた矢先に、とある問題に直面した。

「暗い……な」

「暗い……ですね」

「暗い……わね」

 意気揚々な気分のまま洞窟を潜ろうとしたのだけど、入り口から見える内部は真っ暗で一メートル先も見えない状態だったのだ。

 まあ、普通に考えたら当然だよね、洞窟なんだから。

「どうする勇者、街に戻って《松明(たいまつ)》でも買ってくるか?」

 戦士からの(もっと)もな提案。確かにこのままでは小石に(つまづ)いて転ぶだけでは済みそうにない。下手をしたらモンスターの遭遇にすら気付かない恐れがある。無難にシンアークまで戻って買ってくるか。

「《つるはし》と《ロープ》も必要かもしれませんね」

 手をポンっと叩く僧侶ちゃん。その愛嬌(あいきょう)のある仕草に、顔と一緒に財布の紐も緩みそうになってしまう。が、そこまでの装備は必要ないと自制が掛かる。地図を見る限りでは急な高低差のある場所は見当たらないからね。

「とりあえず一旦街に戻ろう」

「また歩くの!? 勘弁してよー」

 駄々をこねるのは釣竿袋に浮かぶマホツカ。細い場所に器用に胡坐(あぐら)をかく姿からは、疲労の二文字は微塵も感じられない。

「歩くって言っても、マホツカは浮いているんだから疲れなくない?」

「ノンノンノン、これだって少しは魔力を消費してるんだから、疲れるのは疲れるの!」

 そーなんだ、へえー。

「文句を言ったところで、洞窟は明るくならないぞ」

「そうですね、早くしないと空も暗くなっちゃいますよ」

「でもさー、わざわざみんなして街まで戻る必要ないんじゃない? 勇者がひとっ走りして買ってきてよ」

 わたしはパシリか!

「行きは魔法で街まで飛ばしてあげるから、すぐ済むわよ~」

 不敵な笑みを浮かべるマホツカ。怪しい、怪しすぎる。シンアークにではなく世界の果てまで飛ばされそうだ。

 とはいえ、はたして松明の明るさで事足りるのであろうか。中はけっこう広いみたいだし、それに松明片手に戦闘はちょっと辛いな。かといってランタンでは値段が高く予算オーバーするだろう。

 探索隊の人たちはどうやって仄暗(ほのぐら)いダンジョンを攻略したんだろうな。それを訊いてくるのも含めて、やはり街まで一度戻るのが得策だろう。

「あれ? これは何でしょうか」

 皆で戻るかわたし一人でパシるかを悩んでいると、僧侶ちゃんが何やら洞窟の壁面に、周囲とは色の違う突起部分を発見した。

「何かのスイッチですかね?」

 きれいな正方形で、そこだけ表面に凹凸(おうとつ)がない。スイッチと言われてみると見えなくもないけど……。

「何だか面白そうね、押しちゃえ押しちゃえ」

「待て、罠かもしれないぞ。迂闊に触るのは危険だ」

 罠、か。その意見には賛成したいのだけど、ここはまだ洞窟の入り口だ。まさかこんな場所で岩が転がってきたり槍が飛び出してきたり地面から針が出てきたりするはずはない。可能性があるとしたら落とし穴とか――、

「えーい、ポチっとな!」

「「「あっ」」」

 マホツカが躊躇(ためら)いもなく突起部分を押してしまった。っておい! 何やってんの!? おまえは絶対に学校の防災スイッチを何ちゃってで押したことがあるだろ!

「馬鹿! 少しは考えてから行動を起こせないのか!」

「いいじゃん別に、どうせ減るもんじゃないんだし」

 いや、そういう問題じゃないだろ。

「だからっていきなりはないでしょ。もしも洞窟が大爆発したらどうするの!」

「「いや、それはない」」

 あり、二人に思いっきりツッコまれてしまった。割と真剣な答えなんだけどな。

「み、皆さん見てください! 洞窟が」

 僧侶ちゃんの慌てふためく言葉に洞窟の方に目を向けると――(まさかカウントダウン三秒前?)――わたしは目を疑った。

「明るい……な」

「明るい……ですね」

「明るい……わね」

 さっきまで黒一色だった洞窟内部が、不気味なほどに煌々(こうこう)と白く光り輝いているではないですか。広い通路の先が奥まで見通せることができる。

 どゆこと? まさか照明のスイッチだったとか?

 試しに押し込まれた部分を再度押してみると、光が消え再び洞窟が闇に包まれた。そして突起部分が押し戻される。まじかよ。

 随分と冒険者に優しい洞窟だな~、松明とかランタンとかいらないじゃん。(かえ)ってトラップ臭がぷんぷんとするのは気のせいであってほしい。

「探索隊の方たちが作ったんでしょうか?」

「う~ん、それは……」

 無理じゃない? 何度も潜ったとは話していたけど、さすがに人の手でここまで用意できないんじゃないかな。人件費がもったいない。

 わたしは光る壁に近づいて何が発光しているのかを確認しようとしたが、それらしき物は何もなかった。壁自体が光っているとしか考えられない。まさか精霊の力とか?

「新手の罠か?」

「別に何だっていいじゃない。これで街に戻る必要もなくなったわね」

「どうします、勇者さん?」

 迷っていたところで解決はしない。こういう時は思い切って行動した方がいい。

「とにかく行ってみよ」

 誰かが来て明かりを消さないことを祈りつつ、わたしたちは洞窟の中へと足を踏み入れた。

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