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新緑の頃 ⑩(完)

本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。


ご覧いただきありがとうございます。

本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。

学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。

決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。

実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。

働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。

ぜひ最後までお付き合いください!


波風の立たない平穏な日々が過ぎていくことに、浩一は小さな安心感を覚えていた。

これまでのようにただ親の脛(すね)をかじって学校へ通うのではなく、自分の汗と力で稼ぎ、生計を立てている——その実感が、16歳の心に確かな自負と誇りをもたらしていた。


しかし同時に、「親元で暮らしているままでは、まだどこか中途半端なのではないか」という想いも胸のどこかにくすぶっていた。自分の足で真の自立を果たすため、浩一はついに一人暮らしを始めることを決意した。


住まいは、初期費用である敷金や礼金の負担が少ない公団住宅(現UR都市機構)を選んだ。自宅から徒歩数分という距離にある団地だ。幸運なことに抽選に振り回されることもなく、すぐに空き部屋の入居が決まった。間取りは3DK。一人暮らしには少し広すぎる部屋だったが、その棟で空いていたのはそこだけだったのだから仕方がない。


家具や家電は必要最小限にとどめた。冷蔵庫、洗濯機、炊飯器だけを新しく購入し、テレビは実家の自分の部屋で使っていたものをそのまま持ち込んだ。あとは実際に暮らしていく中で、不便を感じたときに少しずつ買い揃えていけばいい。がらんとした広い3DKの部屋で、浩一の新しい生活が始まった。


実際に暮らし始めてみると、一人暮らしならではの苦労や大変さはあった。けれど、夜遅くに定時制高校から帰宅しても、明かりや足音で家族に気兼ねをする必要がなくなったことは、何よりの解放感だった。


自炊らしい料理はほとんどできなかったが、朝だけはご飯と味噌汁、あるいは卵かけご飯といったシンプルな朝食をしっかりと摂ることを心掛けた。体調管理も自立のための大切な責任だった。


昼食は大倉山のガソリンスタンド周辺にあるラーメン専門店や、香ばしい匂いの漂うお好み焼き屋、街の中華料理店などをその日の気分で楽しんだ。そして夜は、H高校の食堂で温かい軽食を腹に納める。週末には実家に顔を出して家族と一緒に夕飯を食べてから自分の部屋へと戻ったため、栄養面で困るようなこともなかった。


自分の力で家計をやりくりし、大人の階段をひとつずつ登っていく——。

この新しい暮らしのすべてが、自立へと向かって力強く歩んでいくための、かけがえのない学びだった。

初夏の爽やかな風が、公団のベランダを吹き抜けていく。

真っ赤な愛車・MBX50とともに駆け抜けたこの数ヶ月間。戸惑いと葛藤の中から始まった浩一の「新緑の頃」は、いつしか揺るぎない芽を吹き、どこまでも青々と伸びやかな若葉を広げていた。

ご覧いただきありがとうございました!

『新緑の頃』編、ついに完結です!

朝から夕方までガソリンスタンドで働き、夜はH高校で学び、帰宅すれば一人暮らしの静かな部屋へ。

16歳にして自分の足でしっかりと大地に立ち、家計をやりくりしながら大人の階段を登っていく浩一の姿は、まさに真の「自立」そのものでした。

大倉山での美味しい昼食や、週末に実家で囲む夕食の温かさなど、頑張る浩一を優しく支える日常の風景がとても印象的です。

苦しさを言い訳にせず、与えられた場所で最高に美しい花を咲かせた浩一の『新緑の頃』。

新しい季節へと向かう浩一の物語、今後の展開もどうぞお楽しみに!


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