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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

幼馴染みの好感度がバグっているかもしれない

作者: たい
掲載日:2026/09/12

俺、神崎蓮には、物心ついた頃から一緒にいる幼馴染みがいる。


「蓮ー! 遅い!」


玄関を開けると、家の前で美月が腕を組んで待っていた。

水野美月、肩まで伸びた黒髪に、大きな目。小柄で柔らかな雰囲気をした、昔から変わらない俺の幼馴染み。


「……まだ七時半だぞ」


「私が七時二十分に来るって言ったじゃん」


「それは聞いたけど、俺が家を出る時間まで決められた覚えはない」


「細かいこと言わないの」


そう言って、美月は俺の鞄を軽く引っ張った。


「ほら、行くよ」


「はいはい」


いつもの朝。

いつもの道。

いつもの幼馴染み。

高校二年生になってからも、俺たちは変わらず一緒に学校へ通っていた。


「今日、数学の小テストだよ」


「……マジ?」


「マジ」


「聞いてない」


「昨日言った」


「聞いてない」


「言った」


「ヤバい。何もやってない」


「最初からそう言えばいいのに」


美月が楽しそうに笑う。

俺もつられて笑った。

こういう時間が、俺は嫌いじゃなかった。

というより。

たぶん、かなり好きだった。


学校に着くと、俺たちはそれぞれの教室へ向かった。


「じゃあ、また昼ね」


「おう」


俺が教室に入ると、すぐに声をかけられた。


「おはよ、蓮!」


振り返ると、佐伯悠真が手を上げていた。

短い黒髪に少し焼けた肌。

明るくて、細かいことを気にしない性格の男だ。


「おはよう、蓮」


その隣には白石莉奈。

長い茶色がかった髪を後ろでまとめていて、穏やかな雰囲気をしている。


「おはよ」


「朝から美月と一緒だった?」


悠真がニヤニヤする。


「いつも一緒だろ」


「まあ、そうだけどさ」


「幼馴染みなんだから普通だろ」


「はいはい」


莉奈が笑う。


「でも、二人って本当に仲いいよね」


「昔からだからな」


「ふーん」


悠真が意味ありげに頷く。


「何だよ」


「別に?」


「その顔やめろ」


三人で笑う。

それから授業が始まり、午前中はあっという間に過ぎていった。


昼休み。

俺たち三人が机を寄せて弁当を広げていると、教室の後ろから声がした。


「蓮」


振り向く。

美月が立っていた。


「今日も一緒に食べていい?」


「もちろん」


「お邪魔しまーす」


美月が空いている椅子を持ってきて、自然に俺たちのところへ座る。


「毎日ここ来るよな」


悠真が言う。


「嫌か?」


「いや、別に」


「じゃあいいじゃん」


「まぁな」


莉奈が笑う。


「私は四人のほうが楽しいし、いつでも大歓迎だよ」


「ならよかった、ありがとう」


美月も笑った。

四人でくだらない話をしながら昼飯を食べる。

授業が終われば、また三人で話して。

そして放課後。

悠真と莉奈とは校門のところで別れた。


「じゃあな、蓮」


「また明日」


「おう」


二人を見送ると、美月が隣に来る。


「帰ろ」


「うん」


学校から家までは、また二人。

朝と同じように、くだらない話をしながら歩く。

何も変わらない。

いつも通りの一日だった。


「蓮、ちょっといいか?」


二人と別れ、美月と帰ろうとしていた俺を、数学の先生に呼び止められた。


「俺ですか?」


「お前以外に誰がいる」


「……はい」


嫌な予感しかしない。


「今日の小テスト」


「あー……」


「もう少し勉強したほうがいいんじゃないか?」


「そんなにできなかったんですか?」


「自覚がなかったのか?」


「……まあ」


「そこは自覚してくれ」


軽く説教されて、ようやく解放された。

少し離れたところで美月が待っていた。


「先生なんだって?」


「ちょっと今日の小テストの出来が悪くて」


「今日小テストあったの?」


「うん」


美月が俺の顔を見る。


「そんなにできなかったの?」


「まあ……」


「じゃあ、教えてあげようか?」


少し得意そうな顔をしている。


「え?」


「数学、わかんないんでしょ?」


「いいのか??」


「当たり前でしょ、それに私のほうができるから」


「頼む」


「じゃあ、帰ったらね」


「うん」


「約束」


「約束な」


二人で学校を出る。


しばらく歩いたところで、美月がふと思い出したように言った。


「そういえば蓮」


「ん?」


「この前、告白されたんでしょ?」


「なんで知ってんの?」


「噂になってたから」


「早いな……」


「で、なんで断ったの?」


「なんでって……付き合いたいと思わなかったから」


「ふーん」


美月は前を向いたまま、少しだけ黙った。


「蓮ってイケメンだし、モテるよね」


「そうか?」


「そうだよ、まぁ勉強はからっきしだけど」

美月がからかったように言う


「はは、否定はできないな」


「でしょ」


美月が笑う。


「美月は?」


「何が?」


「告白とか」


「……ないよ」


「本当に?」


「本当」


そのまま、二人で歩く。

いつもの道。

いつもの交差点。

信号は青だった。

横断歩道を渡り始めた、その瞬間。

――視界の端から、一台の車が突っ込んできた。

赤信号を無視している。


「――美月!」


俺は反射的に美月を道路の外側へ押し飛ばした。


「え――」


次の瞬間。

強烈な衝撃。

身体が浮く。

視界が大きく揺れた。

遠くから、何か叫び声が聞こえる。

けれど、何を言っているのか分からない。

音が遠ざかる。

視界が暗くなる。

そして――。

意識が途切れた。


―――――――――――――――――――――――


「……蓮?」


返事がない。


「蓮!」


目の前で、蓮が倒れている。

私を助けるために。

私を押して。

その代わりに、蓮が――。


「嫌……」


足が震える。

頭が真っ白になる。

さっきまで普通に話していた。

いつも通り、一緒に帰っていた。

なのに。


「蓮……」


何度名前を呼んでも、返事がない。

やがて救急隊員が駆けつけ、蓮は救急車へ運ばれていった。

私はその場に立ち尽くしていた。

病院へ向かってからも、何もできない。

ただ待つしかなかった。

しばらくして、医師から説明を受けた。


「現在、処置と検査をしています。しばらく経過を見る必要があります」


「……はい」


それだけ答える。

椅子に座っても、落ち着かない。

何度も事故の瞬間が頭の中に浮かぶ。

蓮が私を押した。

私を助けようとした。

その直後に――。


「……私のせいだ」


考えても仕方がない。

分かっている。

でも、止まらない。

もし私が一人で帰っていたら。

もしあの道を通っていなかったら。

もし蓮が私を助けようとしなかったら。

考えるほど、胸が苦しくなる。

夜になっても、私は病院に残っていた。


「水野さん、今日は一度帰ったほうが……」


看護師さんに声をかけられる。


「……ここにいたいです」


「でも――」


「お願いします」


私は頭を下げた。

帰りたくなかった。

蓮がここにいるのに、私だけ帰るなんてできなかった。

時間だけが過ぎていく。

やがて夜が深くなっても、眠れない。


「……蓮」


小さく名前を呼ぶ。


「いなくならないでよ……」


涙が落ちる。

ずっと一緒にいるのが当たり前だった。

明日も学校で会って。

くだらない話をして。

帰ったら――。


「……数学、教えてあげるって約束したじゃん」


今日、約束したばかりだった。

まだ何も教えていない。

だから。


「……ちゃんと起きてよ」


私はそう呟いた。

そのまま、蓮がいる病室の近くで朝を待った。


―――――――――――――――――――――――


「……ん」


目を開けた。

最初に見えたのは、白い天井だった。

頭が重い。

身体もだるい。

ここがどこなのか、すぐには思い出せなかった。


「……俺、何してたんだっけ」


ぼんやりした頭で考える。

学校。

帰り道。

美月。

――事故。

そこまで思い出したところで、横から声がした。


「……蓮?」


「……美月?」


美月が椅子に座っていた。

髪は少し乱れていて、目の下には隈がある。


「起きた……」


美月は、じっと俺を見つめていた。


「……そんなに見るなよ」


「ご、ごめん」


美月が少しだけ顔を逸らす。


「ただ……本当に起きたんだって思って」


「……大げさだな」


「大げさじゃないよ」


その声が少し震えていた。

俺は何となく気まずくなって、視線を逸らした。

そのとき。

ふと、美月の頭の少し上に何かが浮かんでいることに気づいた。

数字だった。


999


「……?」


何だ、これ。

目をこする。

もう一度見る。

消えない。


999。


「……変なの」


「どうしたの?」


「いや……なんでもない」


事故のせいで、頭がおかしくなっているのかもしれない。

そう思った。


「俺、どれくらい寝てた?」


「昨日の放課後からずっと」


「……そんなに?」


「うん」


美月が少し笑う。


「朝になっても起きなかったから、心配した」


「そっか……」


美月が立ち上がる。


「看護師さん呼んでくるね」


「うん」


美月が病室を出ていった。

少しして、看護師さんと一緒に戻ってくる。


「おはようございます、神崎くん。気分はいかがですか?」


「頭がちょっと痛いです」


「それ以外は?」


「大丈夫です」


看護師がいくつか確認していく。

その途中。

俺は看護師の頭上に、また数字があることに気づいた。


30


……まただ。

さっきの美月と同じ。

いや。

数字は違う。

美月は999。

この人は30。

意味が分からない。


「どうしました?」


「……いえ」


事故の影響なのかもしれない。

そんなことを考えているうちに、看護師から説明を受ける。

幸い、大きな怪我はなかったらしい。

ただ、かなり強い衝撃を受けていたため、昨日の夕方から意識が戻らなかった。


「頭が混乱したり、事故の前後のことを曖昧に感じたりすることもあります」


「分かりました」


「今日は無理をせず、ゆっくり休んでくださいね」


「はい」


看護師が病室を出ていく。

俺は天井を見上げた。

さっきの数字が頭から離れない。


999。


30。


何なんだ。

俺の頭がおかしくなっただけなのか?

それとも――。


夕方。


病室のドアが開いた。


「蓮!」


悠真だった。


「お前、マジで心配したぞ」


「悪い」


「悪いじゃねえよ」


その後ろから莉奈も入ってくる。


「蓮、大丈夫?」


「うん。頭がちょっと痛いくらい」


「よかった……」


二人を見た瞬間。

また数字が目に入った。

悠真の頭上には――。


55


そして莉奈には――。


68


「……あれ?」


思わず声が出る。

悠真より、莉奈の数字のほうが高い。

なんでだ?

俺は二人を交互に見る。


「どうした?」


悠真が首を傾げる。


「いや……」


数字。

看護師は30。

悠真は55。

莉奈は68。

そして、美月は999。

もしかして。

この数字は、人によって違うものなのか?

それなら――。


「なあ、悠真」


「ん?」


「俺のこと、どう思う?」


「は?」


悠真が固まる。


「急に何だよ」


「いいから」


「……友達だろ」


俺は悠真の頭上を見る。


55。


……合ってる。

次に莉奈を見る。


「莉奈は?」


「私?」


「うん。俺のことどう思ってる?」


莉奈は少しだけ困ったように笑った。


「大事な友達、だよ」


「……そっか」


頭上には68。

俺は黙り込む。

友達。

でも、悠真より高い。

何となく、引っかかる。

莉奈は少しだけ俺を意識している。

そんなことには、この時の俺はまだ気づいていなかった。

けれど。

数字そのものが、ただの幻ではない可能性は高くなってきた。

人によって違う。

そして、その数字はどうやら――。

俺に対する「何か」を表している。

俺は美月を見る。

その頭上には、相変わらず。


999


「……なんでだよ」


その数字だけは。


どう考えても、普通じゃなかった。

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