「テストの選択肢をどれにするか」で、命がけの心理戦を繰り広げる高校生。
高校生活最後の定期テスト。
数学の『ラスボス』的最終問題【問10】を前に、俺、佐藤雄二も御多分に漏れず苦しんでいた。
「くそっ、見えてこねぇ……」
目の前には、白と黒の魔陣——『4択のマークシート』が鎮座していた。
設問は、見たこともない悪魔のような微分積分。
解法などとうに忘れた。俺の手元に残された武器は、運と直感、そして鉛筆のみ。
「①、②、③、④……どれだっ!?」
俺の脳内で、超高速の心理戦が繰り広げられる。
待て、冷静になれ。一度鉛筆を置き、残り僅かな残り時間を示す時計を睨む。
よし、問1から問9までのマークを思い出せ。
『①・①・③・④・①・②・①・①・①』……
ゾッとした。冷や汗が背中を伝う。
①多すぎだろ……
いくらなんでも全10問中6問が『①』なんてことがあってたまるか!
だがしかし!出題者の山田数学教諭は、極めて陰湿な性格で知られている。
フッ……誘っているのか山田……?
『流石に次は①じゃないだろう』という受験生心理を逆手に取り、4連で①を放ちに来ているのか……!?
地獄から手招く山田。その手中にはまってしまおうものなら、アリジゴクのように抜け出せない永遠の迷宮が待ち受けている……
はっ、集中集中。
これはやはり①なのか?
いや、違う!
『深読みさせて①を選ばせ、正解は④』という裏の裏をかいた二重トラップの可能性が高い!
「くっ……! 答えは④なのか……!?」
その時、右隣の席から「カリカリ……」と、鉛筆の軽快な音が響いた。
学年首位の天才、神谷だ。
チラリと視線をやると、神谷はすでに鉛筆を置き、余裕の笑みで天井を仰いでいる。
神谷……! お前の右手の手首の角度、鉛筆の動かし方……!
俺は神谷のマークシートを直接見ることなく、彼の鉛筆の振動痕から回答を割り出す『神の目』を発動させた。
カンニングではない、決して。
集中しろ、見逃すな、その微細なる振動の一つ一つに至るまで……
あの二連打の動き……! マークしたのは……『③』だ!
な、なんだと……!?
①でも④でもなく『③』だと……!?
「なるほどな山田ァ!!」
俺は心の中で絶叫した。
①の連続で焦らせ、④に誘導する裏の裏……そのさらに裏、『結局、無難な③が正解でした』という心理的盲点を突く三重ブラフ!
やった……!
これだ!これに違いない!
山田ァァ!この勝負、俺の勝ちだぁぁぁ!
テスト監督に訝しげな目で見られたがまぁいいだろう。
2週間後。
授業が終わり、山田教諭が教壇から降りてくる。
そして、黒板の端に「定期テスト解答」と書かれたプリントをペタリと貼り付けた。
俺は勝利を確信しながら、自信満々に黒板を見上げた。
そこには、赤ペンでこう書かれていた。
【問10】※採点除外
※印刷ミスにより、正解の選択肢が存在しませんでした。全員に加点します。
「……ぶはっ!!」




