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四.プレゼント


「おい、珠梨。いつまで不貞腐れる気だ」

「別に? 不貞腐れてないし」


 滅多に来ない玉城神社の参拝者を誘惑したことが、神社の祭神 篁沙久神にバレた珠梨。家に素直に帰ったものの、怒られて口喧嘩の末、居間でぴえんのぬいぐるみを抱きながら、現在2時間近く、珠梨は不貞寝をこいていた。


「新年早々、要らぬ意地を張るな」

「意地張ったところで、別に篁沙久に迷惑掛けてないじゃん。放っといてよ」


 怒られた苛立ちと、知らない男を誘惑する所を見られた気まずさと、篁沙久に振られたショックと……色々な感情が混ざって、珠梨はすっかり意固地になっていた。


「いい加減、知らぬ男を誘惑するのはやめろ。お前が穢れて何になる」

「嫌がらせに決まってんじゃん!」


 烈火のごとく、珠梨は感情的に言った。


「天界で胡座かいて、甘い汁が熟すのを待つ神々(あいつら)への嫌がらせよ! 食うにせよ、喰らうにせよ、長年待ち侘びた褒賞が誰かの食いかけだと気付いても尚、ちゃんと残さず食べるのか見物だわ」

「そんな下らない嫌がらせのために、自暴自棄になるのは辞めろ」

「じゃあ好きな人だったらいいの? あたしの好きな人だったら篁沙久は文句言わないの? じゃああたしが好きになれそうな男連れてきてよ!」


 珠梨は、この玉城神社に、もう10年以上幽閉されている。参拝者が来られないのは、気象の神である篁沙久が、来られないように山の天気を変動させているから。

 すべては彼女に人間を近づけさせないため。それが、「神に呼ばれないと行けない神社」と言われる、玉城神社の実態だ。

 神々の嗜好を満たす存在である珠梨に、悪影響を与え、『贄』としての質が落ちてしまわないように、現し世との交流を断絶させられて育った。

 恋人は愚か、生まれてこの方、一度足りとも学校に行かせてもらえなかった彼女には、友達すら一人もできたことがない。

 19になれば天界に移住することが決まっている彼女に、神々は人間の教育を施すのは無意味と判断した。

 その代わり、彼女には、神を喜ばせるための教育が徹底的に施された。唄、舞、能、茶道、華道、機織り、農業……ありとあらゆる教育を、その道の神から直伝された。

 そうして、神の御心を満たすだけの、理想の人形は作られて行った。

 「好きになれそうな男を連れて来い」という言葉は、まさに彼女の、「ここから出せ」と言う悲痛な心の叫びそのものだった。


「……男を連れてくることは、できない」

「知ってるわよ。だから言ってんのよ。真に受けてバカみたい」

「お前の趣味は、男じゃなくて女かもしれないだろ?」

「今その無駄にデリケートな配慮いらないから」


 再び不貞寝モードに入って、寝転ぶ珠梨。一度こうなってしまえば、翌日の起床時までこの状態が続く。

 「致し方ないか」篁沙久はやれやれと深いため息を零した。

 

「おい、珠梨」

「話しかけないで」 

「予言してやろう。お前は、10秒後には必ず機嫌が治っている」

「はあ? もうガキじゃないんだし、昔みたいに物で釣られると思ったら大間違いよ」

「これを見てもか?」


 ガサゴソと、どこからともなく取り出した赤く大きな紙袋を、篁沙久はそっぽを向く珠梨の上に、ひけらかすように見せた。


「何よこれ」

「誕生日プレゼント。ずっとお前が欲しがっていたSwo……」

「うっそ、マジで!!? やったーーーー!!!!」


 喜びの声高らかに、珠梨は俊敏に篁沙久の手から紙袋を掻っ攫って、中を開け始めた。

 プレゼント用に、綺麗に包装された包装紙をビリビリに破り、中から出てきたのは最新版ゲーム機 Swoch。以前、街中に二人で出かけ、家電量販店に立ち寄ったところ、店員に呼び止められてゲーム機の体験をすることになった。それがきっかけで、珠梨がゲームにハマってしまい、ずっと欲しがっていたのである。


「うわぁ!! 篁沙久ありがとう!」


 先程までのむくれ顔から一変。篁沙久の予言どおり、誕生日プレゼントをもらって、意固地が意図も簡単に解されて、彼女はすっかりいつもの調子に戻った。

 ピカピカのゲーム機に目を輝かせながら、無邪気さ溢れる、子どもじみた満面な笑みを篁沙久に向け、礼を言う。

 

「早速一緒にやろ! ゲームは何ができるのー?」

「スマプラと花鉄、あとアリオ。初期設定は……どうせ自分で出来ないだろうから、もうしてある」

()()()よく許可取れたね」

「まあな。『あと一年だけだから』って言ったら渋々……」

「そう」

 

 テレビやゲーム、漫画、携帯、雑誌……年相応の若者であれば、ごく自然と興味を持つようなものを、彼女は何も知らない。

 本一冊を購入するにしても、天界に許可を取らなければならないほどの徹底な管理ぶり。これだけで、天界の神々がどれだけ珠梨に異常に執着しているか、想像ができてしまう。


「ねぇ、篁沙久。これ名前って、本名にしないといけないの?」


 早速ゲーム機を起動させ、花鉄の陽気な音楽が流れるゲーム画面に夢中になりながら、手招きする珠梨。


「これはゲーム内で呼ばれる自分の名前を設定するだけだから、別に偽名でもいい」


 隣から画面を覗き見て、篁沙久が答える。


「じゃあ、名前変えよ。篁沙久の名前もあたしが考えてていい?」

「いいよ。じゃあ、設定が終わるまで、俺は洗濯物を取り込んでくる」

「わかった!」


 不慣れな手つきで、ソフトに同封されていた説明書を一生懸命確認しながら操作する珠梨に、篁沙久はフッと笑みを零しつつ、洗濯物を取りに中庭に出て行った。


 


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