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第一話 金曜日

幼馴染という関係は、逃げ場がない。

離れようとすると思い出が足を掴む。

俺たち四人は、そのことを知りながら同じ場所に集まり続けていた。


金曜の夜。駅前の居酒屋。奥の四人席。

座る順番は、

最初から決まっていたかのように毎回同じだった。

正面にちひろ。隣にきょうひ。

少し離れた場所にさやか。そして俺。


誰も疑問を口にしない。だからこの形が、正解なんだと思い込めた。


「またそれ頼むの?」

ちひろが俺のメニューを見て言った。笑顔は柔らかい。

でも、俺の方を見ていない。「ほんと、変わらないよね」


変わらない。それは安心の言葉であると同時に諦めの言葉でもあった。


「安定してるってことだろ」

きょうひが言う。当然みたいな顔で。


ちひろはその言葉に笑った。

俺じゃなくきょうひを見て。


胸の奥で何かが静かに沈んだ。


でも俺は、その感覚に名前をつけなかった。


名前をつけた瞬間、この関係は壊れてしまう気がしたから。


さやかはほとんど喋らない。


会話の端でグラスを回し、人の顔を見る。

笑うのも、頷くのも、少し遅れる。


まるでこの場にいる全員の温度を一人で測っているみたいだった。


俺はその視線に気づかないふりをした。

気づいたところでどうにもできなかったからだ。


トイレに立った帰り、通路の角で声がした。


「……ねえ」

低い声。さやかだった。


「ちひろと、きょうひ近すぎない?」


 一瞬、

 足が止まった。


「え? そうかな」

ちひろの声。軽い。何も考えていないみたいに。

「幼馴染だし今さらじゃない?」


その一言ですべてが片づけられた。

さやかは何も言わなかった。


否定もしない。肯定もしない。

ただ、自分の気持ちを引っ込めた。

それがこの四人の中で一番自然な選択だった。

席に戻るとさやかと目が合った。


一瞬だけ。


そこには期待も、怒りもなかった。


あったのは諦めに近い確認だった。


俺は笑ってやり過ごした。

助ける気も壊す気もなかった。


ただこの場にいられればよかった。

それでよかった。


帰り道。四人で駅へ向かう。


ちひろときょうひが並び、俺は半歩後ろ。

さやかはさらにその後ろ。


誰も振り返らない。誰も並び直そうとしない。

その距離が偶然じゃないことを全員が理解していた。


家に帰り、布団に沈む。

スマホには四人のグループLINE。


さやかの発言は最近ほとんどない。

既読だけが静かにつく。


それでいい。

そう思うことで俺は安心していた。

四人という数は、安定している。


そう信じたかった。

でも実際は誰か一人が感情を殺すことでかろうじて保たれる形だった。

そして最初に黙ったのはさやかだった。

次に黙るのが誰なのか。

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