表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人冒険者カゲルの日常系ダンジョン冒険日記 〜通りすがりのスゴイ人たち〜  作者: 二天堂 昔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

第3話『蒼炎のケルベロス』


第二層へ足を踏み入れた瞬間、世界が変わった。

空気が――重い。

肺に吸い込むたび、まるで見えない手に肺をつかまれ押し潰されそうになる感覚...。


(……な、なんだこの感じ……?

息が……くるしい……)


俺の違和感センサーが大騒ぎしている。

湿り気のない冷気。

それなのに肌の内側だけ、じわりと汗ばむような不快な感覚。


静寂――ではない。

音すら生まれることを拒む、「圧」の沈黙。

迷宮そのものが、外敵を拒むように息を潜めている空気だった。


俺は足を震わせながら三人の背を追い、やがて開けた空間に出た。

そして――足が止まる。

瓦礫が散乱し、壁には焦げが広がり、床は抉られ黒く焼けている。


ここでは――戦いがすでに始まっていた。

視線が一点に吸い寄せられる。

蒼い炎がゆらりと灯る。

影が立ち上がる。

三つの頭を持つ巨躯。

人格すら呑み込むような深淵の眼。


――蒼炎のケルベロス。


図鑑で見たときはただの絵だった。

だが今、そこにいるのは――

生きている化け物だった。

視線が触れた瞬間、背骨の奥に氷柱でも突き立てられたように、体温が奪われる。


逃げろ。

その言葉が頭ではなく本能から湧いたのに、声は出なかった。

……いや、俺だけじゃない。

普通の冒険者なら誰だって――逃げる。

だが。


前に立つ三人は違った。

武蔵は木刀を握りながら――微動だにしない。

フィリーネは弦に触れた瞬間、空気が風に変わり――迷宮がざわつく。


にすけは手首の角度すら乱さず、包丁を抜く音すら立てない。

――そして。

ケルベロスが動いた。

咆哮。

轟音。振動。

鼓膜が殴られ、胸骨が震え、足元の石が跳ねる。

「ッ――!」

耳鳴りの中、蒼い炎が三方向へ弾け飛ぶ。

逃げ場なんて――どこにもない。


……なのに。

三人は動かない。

――確信しているやつの姿だ。


◆にすけ

左から飛ぶ炎弾。

空気が避けきれず、焦げた匂いと熱が先行する。

普通なら、それだけで皮膚が溶ける。

しかし――

にすけは鼻で息を吸い、

「焦げくさいな。……雑味だらけだ。」

包丁が光り、空間に線が刻まれる。

シャキン。

調理の始まりの音。


次の瞬間、炎弾は真っ二つに裂かれ、綺麗な断面を見せた後、煙すら残さず消えた。

あの動きは――戦闘じゃない。

料理だった。


◆フィリーネ

右から迫る二発目。

圧縮された蒼炎の塊が空間を焼き、床石が熱で歪む。

フィリーネは物質としての矢を番えない。

風が――矢として生まれる。


「軽い攻撃ね。牽制ってところ?」

弦を引いた瞬間、空間が震えた。

――バシュッ!!

風矢が蒼炎を切り裂き、粉々に霧散させた。

その動きは鮮烈で、美しく、残酷だった。


◆武蔵

真正面。

最も速く、最も重く、最も致命的な一発。

避けられる速度じゃない。

意識では追えない。

だが武蔵は――ただ静かに、木刀をそっと添えた。

呼吸すら感じない。


そして――

コン。

本当に、それだけだった。

蒼炎は軌道を捻じ曲げられ、弧を描き――

ケルベロス自身へ還る。

轟音。火花。衝撃波。

中央の頭がわずかに仰け反る。

そこで――沈黙。

蒼い炎がゆらめき、空気の密度がさらに増した。

ケルベロスの瞳が三人を見据える。

理解不能。

驚愕。

――そして、わずかな愉悦。


「……グル……ルァ……」

俺は瓦礫に手をつき、震える息を吐いた。

(な、なんだ今の……?

防いだ?いや違う……受け流した?操った?

戦闘って……あんな……)

――俺たち凡人の世界じゃない。


ケルベロスの体内で蒼炎が再び渦巻く。

怒りか。

それとも――歓喜か。


武蔵が息を整え、霞のように言う。

「――ここからだ。」

フィリーネの弦が鳴る。

にすけの包丁先端がゆっくりと獣へ向く。

ケルベロスの喉奥で蒼炎が唸り、迷宮を染める。

俺の鼓動が暴れる。


俺の違和感センサーは大災害なみの大荒れ状態。

背筋が震える。

怖い。

逃げたい。

でも――

目が離せない。


(……馬鹿だ。逃げろよ俺。

だけど……

――この戦いを、見届けたい。)


次の瞬間。

世界は炎と風と音に飲み込まれた。 


――つづく。


================

◆ あとがき ◆

作者:二天堂 昔


第3話をお読みいただいた皆さま、誠にありがとうございます。


いよいよ迷宮第二層で、カゲルが“とんでもないもの”と出会う回になりました。

本人は震えるばかりですが、読者の皆さんには

武蔵・にすけ・フィリーネとの“格の違い”を

より強く感じていただけたのではないでしょうか。


蒼炎をまとったケルベロスは、この物語でも重要な存在です。

ただの強敵ではなく、迷宮そのものの異常さを

象徴するような立ち位置になっています。

カゲルがこれからどう巻き込まれていくのか――

ゆっくり、でも確実に深い部分へ触れていきます。


ちなみに、このケルベロスの迫力や

三人の落ち着いた立ち姿などは、

漫画版だとまた違う雰囲気で描いています。

もし興味があれば、Kindleインディーズで

タイトルを検索すると無料で読めますので、

気軽に覗いてみてください。


次回、第4話では“凡人と怪物”の距離がさらに縮まります。

カゲルの胃はますます悲鳴を上げますが、

彼自身の物語も静かに動き出していきます。


それでは、また次の話でお会いしましょう。


               二天堂 昔

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ