冒険者ギルド
翌朝。
坂田はまだ薄暗い街路を歩いていた。
昨日の路地裏での一件が尾を引き、背後に視線を感じるたびに手が腰のナイフへ伸びる。
だが今の彼には、逃げ隠れして過ごす選択肢はなかった。
目指すは――冒険者ギルド。
大通りに面した石造りの建物は、既に活気に満ちていた。
鎧に身を包んだ傭兵風の男たち、杖を抱えた魔術師風の女、獣人の狩人……。
皆が依頼を求め、あるいは仲間を探しに集っている。
坂田が扉を押すと、中の喧騒が一瞬だけ彼を飲み込んだ。
――見知らぬ顔。見知らぬ空気。
だが、不思議と足は止まらなかった。
受付嬢がにこやかに声を掛ける。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。登録ですか?」
坂田は頷いた。
差し出された羊皮紙に名を記す。――坂田。
年齢、出身、得意分野。そこに「剣技」「魔法」と書くことはできない。
しばし迷った末、彼は空白の欄にこう書いた。
――〈運を操る〉
受付嬢は一瞬きょとんとしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「……少し変わった記載ですが、問題ありません。登録完了です」
首から下げられる木札。これで彼も、正式に“冒険者”となった。
その瞬間、坂田は心の奥で感じた。
自分のリールが静かに回転を始めたような、そんな予感を。
これから先、危険も栄光もすべては“確率”次第。
だが彼は笑みを抑えきれなかった。




