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異世界ギャブル勇者〜確率を超えて〰️  作者: 海木雷


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禁書庫の魔導士

――王都図書館・禁書庫入口。


推薦状を携えた三人は、図書館の奥深く、普段は厚い扉で閉ざされた区画へと辿り着いた。

扉の前には二人の衛兵と、魔術師ギルドから派遣されたらしい青衣の監督官が待ち構えている。


「推薦状を」

淡々と告げられ、ラケイシが封筒を差し出す。


監督官は蝋印を確認すると、わずかに目を細めて頷いた。

「確かにギルド長の署名……通してよい」


重厚な扉がゆっくりと開かれていく。

奥から漂ってきたのは、古紙とインク、そしてわずかに鉄錆のような匂い。

どこか懐かしいようでいて、胸の奥をざわつかせる冷気が混じっていた。


クレアがごくりと喉を鳴らす。

「……ここが、禁書庫」


一歩足を踏み入れると、外の世界の音は完全に遮断された。

高い天井までそびえる書架が延々と並び、そのひとつひとつに封印の札が貼られている。

札から淡い光が溢れ、書物そのものを鎖で縛るように固定していた。


「圧が……すごいな」

真時は肩に重しをかけられたような息苦しさを覚える。

ただの本であるはずなのに、内に秘められた魔力が空間を歪ませているのだ。


ラケイシは冷静に歩を進め、手にした羊皮紙を確かめながら低く言った。

「目当ては封印術式の系譜を記した書。数百年前の大魔導士が残した魔法書だ」


彼らは書架の迷路を進んでいく。

通路を曲がるたび、札に記された古代文字が微かに光を帯び、耳に囁くような幻聴が響いた。


「……聞こえる?」

クレアが振り返ると、真時も頷く。

「うん。言葉じゃないけど……心に直接響いてくる」


ラケイシは振り向かずに告げた。

「気を取られるな。禁書は術者の心を試す。惑わされれば、出られなくなるぞ」


やがて三人は、半ば崩れかけた書架の前に辿り着いた。

そこだけ封印の札は焼け焦げており、重い鎖が二重に巻かれている。


「……ここだ」

ラケイシの声は低く震えていた。


鎖に触れた瞬間、冷たい魔力が三人を包み込む。

視界がぐらりと揺れ、気づけば周囲の景色が変わっていた。


――暗闇の中。

床一面に広がる巨大な術式が、淡い光を放ちながら浮かび上がる。


「……幻影?」

真時が戸惑う。


ラケイシは目を細め、低く告げた。

「いや、これは試練だ。書が我らを認めるか、試している」


術式の光が脈打ち、三人の影が揺らぐ。

そして光の中心から、ぼんやりと人影が立ち現れた。


銀の杖を携えた、古の魔導士の幻影。

その口がゆっくりと開かれる――。


――禁書庫・幻影空間。


淡い光の中心から現れた人影は、銀灰の髪を揺らし、深紅の瞳で三人を射抜いた。

長い杖を片手に、幻の魔導士は重々しく名を告げる。


「我が名はアゼル=ファルマ。数百年の時を超え、この術式に魂を縫いとめた者だ」


その声は低く、しかし響きは空間全体を震わせるほど強大だった。


クレアは思わず膝を折りそうになる。

「……大魔導士、アゼル……」


ラケイシが妹の肩を支え、静かに視線を返す。

「我らは魔力の乱れについて調べに来た。知識を求め、推薦を受けて禁書庫に入った。願わくば、その知を授けてほしい」


アゼルは深く目を細め、口角をわずかに上げた。

「知を望むか……ならば示せ。己を縛る“心の乱れ”を超えられるかどうかを」


次の瞬間――床の術式が眩しく光を放ち、三人の足元が崩れ落ちる。



――真時の視界。

気がつくと、彼は誰もいないパチンコホールに立っていた。

たばこの匂い、眩しいライト、無数のパチンコ台。そして、ただ独り。


「……」

胸の奥に広がる孤独と、不安。

異世界に来てから、何度もごまかしてきた感情が濃く浮かび上がっていく。


背後で声が囁いた。

「お前はここにいるべきじゃない。帰る場所も、守る理由もない」


真時は拳を握りしめ、俯いた。



――クレアの視界。

彼女は石造りの広間に立ち尽くしていた。

魔力が暴走し、壁や床を砕き、炎や雷が暴れ狂っている。

「いや……やめて……!」

必死に制御しようとするが、手足が震え、力は暴れ出すばかり。


そして耳に響く声。

「お前は危険だ。存在そのものが災厄だ。誰も救えない」


涙で視界が滲み、膝が崩れる。



――ラケイシの視界。

彼は血に染まった大地に立っていた。

倒れ伏す兵、荒れ果てた村、そして妹の小さな背中。

「兄さん、どうして……どうして助けてくれなかったの」

幼い日のクレアが振り返り、血の中で泣いていた。


「……違う、俺は……守ると誓ったのに」

ラケイシは剣を握り締めるが、その刃は錆びて折れていた。



三人の心をそれぞれ蝕む幻影が、彼らを飲み込もうとしていた。


そしてその上空から、アゼルの声が響く。

「真実を見極め、己を律する意志を示せ。さもなくば、知識は永遠に閉ざされよう」


――試練の始まりだった。



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