調査報告
――魔術師ギルド・応接室。
重い扉が再び閉じられると、応接室の空気はひどく静まり返った。
三人は待ち受ける銀髪の魔導士の前に出る。
ラケイシが一歩前に進み出て、淡々と報告を始めた。
「封印区画の中央に、巨大な術式を確認した。封印そのものだが……魔力の流れが歪み、不安定に脈動していた。異常は確かだ」
魔導士は目を細め、ゆっくりと顎を撫でる。
「……やはりか。観測の誤りではないと分かっただけでも収穫だ」
クレアが緊張した面持ちで続ける。
「修復を試みましたが、知識が足りず……現状では抑える事が精一杯でした。」
「ふむ……」
壮年の魔導士は深く息を吐いた。
「二組の調査隊が成し遂げれなかったのは、それに気づかなかった。それだろうな。それに、術者の魔力が乱れに飲まれる。命を落とさなかっただけでも幸いだ」
真時が思わず眉をひそめる。
「そんなに危険なものを……ギルドは放置していたんですか?」
魔導士は冷ややかに真時を見据える。
「放置ではない。だが、触れれば被害が広がる。無闇にいじるよりも、観測だけに留めるのが賢明だったのだ」
真時は言葉を失い、唇を噛む。
その横でラケイシが静かに告げた。
「だからこそ、封印を修復する術を求めている」
短い沈黙のあと、魔導士は机上の羊皮紙に署名を記した。
「――約束通りだ。推薦状を用意しよう」
黒衣の従者が再び現れ、重厚な蝋印が押された封筒を持ってくる。
それをラケイシが受け取り、深く頭を下げた。
「感謝する」
魔導士はなおも三人を見つめながら、低く告げる。
「だが気をつけろ。お前たちが見たのは、まだ“前触れ”に過ぎぬ。封印が完全に崩れれば、数百年前に封じられたものが姿を現すだろう」
クレアの肩が小さく震え、真時は息を呑む。
魔導士はそれ以上は語らず、ただ薄く笑みを浮かべて視線を伏せた。
――応接室を後にした三人は、夜風の流れる石畳の街路に出た。
推薦状を手にしたものの、胸に残るのは重苦しい不安。
クレアが足を止め、小さく呟いた。
「……兄さん。あの“前触れ”って……」
ラケイシは答えず、空を見上げる。
「今はお前の体を治すことが最優先だ。」
真時は二人を見比べ、決意を込めて頷いた。
夜の王都の街灯が、三人の影を長く伸ばしていた。
――そして、翌日。三人は推薦状を携え、王都図書館の奥に眠る《禁書庫》へと向かうのだった。




