その夜
坂田はその晩、粗末な宿の藁布団に横たわりながら、路地裏での出来事を何度も思い返していた。
あのとき、確かに銀貨一枚を差し込み、リールを回した。
目に浮かんだ絵柄は「小役」。揃った瞬間、あのごろつきの動きが一瞬止まり、隙を突いて倒せた。
――考えようによっては、ただの幸運だ。
しかし坂田には分かっている。これは単なる偶然ではない、と。
「……やっぱり、このスキルは俺の生きる道だな」
彼は小さく呟いた。
普通に剣を振るえば腕力で負ける。
魔法を学ぼうにも資質も知識もない。
だが、この力だけは確かに彼の手に宿っている。
問題は、その代償だった。
財布の中に残っているのは、昼間の取引で得たわずかな銀貨。
食事、宿代、そして明日の生きる糧を考えれば、そう何度も無闇に回せるものではない。
だが――命を落とすよりは安い。
坂田はそう割り切った。
そして決める。
「明日、冒険者ギルドに行こう」
護身用に過ぎなかったはずの力を、今度は「生業」として試すときが来たのだ。
剣も魔法も持たぬ自分が、この乱世を生き残るには――
唯一無二の“確率操作”のスキルを、戦場で証明するしかない。
胸の奥で、かすかな高揚感と不安が入り混じる。
坂田は目を閉じ、世界のどこかで再びリールが回る音を幻聴のように聞きながら、深い眠りへと落ちていった。




