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追悼
――宿の広間。
「銀の牙」の三人は、暖炉のそばの席に座っていた。
卓上には酒瓶と杯、そしてメダルがひとつ。
彼らの表情には涙の跡はない。ただ、深く沈んだ影が刻まれていた。
真時たちが近づくと、黒髪の剣士カイルが顔を上げる。
「……無事に戻ったか」
レオンが頷く。
「ああ。お前たちも……伝言助かった」
カイルはかすかに笑い、杯を傾ける。
赤毛の槍使いドランもそれに続く。
真時が口を開く。
「ライムは、俺たちに生きろって言ってくれた気がする。だから、前に進む」
魔術師アイラが盃を持ち上げ、静かに笑った。
「なら、今夜は――生きて帰った者同士で飲みましょう。死者を悼む酒じゃない。明日を繋ぐ酒よ」
その言葉に、自然と盃が交わされた。
バルドが大声で笑い、ユリクが苦笑し、レオンは無言で杯を干す。
「銀の牙」と「中段チェリー」。二つのパーティは、同じ夜を過ごす仲間として杯を重ねた。
そして卓の中央には、力を失ったはずのライムのメダルが輝いていた。
彼の意思を繋ぐ証のように――。




