激闘.2
――真時の手の中で、ライムを変換したメダルが淡く光を放つ。
「……行くぞ」
決意を込め、真時はスキルを発動させた。
――《スロット起動》
目の前にスロット台が現れる。
時間が凍り付き、すべての音が消える。
ただ、真時の胸の鼓動だけが響いていた。
(……ライム。力を貸してくれ)
カチリ、とレバーを叩く。
リールが回転し、緊張が張り詰める。
真時は強い意志でボタンを押す。
【ライム】【ライム】【ライム】
三つの図柄が一直線に揃った瞬間、眩い閃光が炸裂した。
「っ……!」
時間が再び動き出す。
その中央に――ライムの霊が立っていた。
生前と同じ装備を纏い、その姿は光をまとった戦士そのものだった。
「....行くぞ..」
ライムの霊は剣を振り抜いた。
刃は光を帯び、一直線に巨大カマキリへと叩き込まれる。
――轟音。
カマキリの硬い外殻が砕け、黒い体液が飛び散る。
強力な一撃により、巨体がよろめいた。
「今だ、畳みかけろ!」
レオンが声を張り上げる。
「うおおおっ!」
バルドが大剣を叩きつけ、ユリクが矢を連射。
《銀の牙》の仲間も、驚きながら、しかし怒りと悲しみを力に変えて剣を振るう。
真時も恐怖を押し殺し、体中の痛みに耐え剣を振るう。
連携した総攻撃が次々と弱ったカマキリを貫き――
最後はライムの霊が追撃の一閃を放つ。
「おおおおッ!」
光の剣が巨体を斬り裂き、轟音と共に鉱道へと崩れ落ちた。
ボス級魔獣の体が動かなくなると同時に、ライムの霊は静かに仲間を振り返り――微笑んだ。
「……任せたぞ」
そう言い残し、霊は光となって消えていった。
――静寂。
仲間たちはその場に立ち尽くし、深い息を吐いた。
勝利の実感よりも、ライムを失った痛みの方が胸を占めていた。
ボス級魔獣が絶命した鉱道に、重苦しい沈黙が広がっていた。
血と体液の臭いが漂う中、両パーティの面々は肩で息をしながら剣を下ろす。
勝利したはずなのに、誰一人として喜びの声をあげる者はいなかった。
「ライム……」
《銀の牙》の仲間が、地に残された血痕の前に膝をつき、声を押し殺す。
涙が土に染み込み、坑道の冷えた空気に嗚咽が響いた。
真時もその光景を前に、拳を強く握り締めていた。
(……俺は、ライムを“変換”した。あの一撃は確かにライムの力だった。けど……)
胸に重く、言葉にならない感情が渦巻く。
やがて、《銀の牙》の一人が顔を上げた。
「……お前……さっきのは何だ? ライムの……霊が出て……」
仲間たちも揺れる視線を真時に向ける。
口を開きかけたその時――
「待ってくれ」
低く、だがはっきりとした声が割り込んだ。
レオンだった。
彼は険しい表情で《銀の牙》の仲間を見据える。
「今は、何も言わないでほしい。……真時の力については、まだ話すべきじゃない」
その言葉に空気が張り詰める。
しかし、ライムを失った仲間たちは、しばしの沈黙ののち、静かに頷いた。
「……わかった。ライムも……お前らに託したんだろう」
「口外はしない。ただ……あいつの力が無駄じゃなかったと、忘れないでくれ」
レオンは深く頷き返す。
「約束する」
真時は俯いたまま、仲間たちのやり取りを聞いていた。
罪悪感と感謝が入り混じり、胸の奥が痛む。
(……ライム。お前の力、必ず意味のあるものにしてみせる)
――戦いの後の静寂は、勝利の余韻ではなく、大切な仲間を失った痛みだけを残していた。




