休息
――王都・大通り。
夕暮れの賑わいの中、屋台が軒を連ねる一角で、人だかりができていた。
「お、見ろよ真時。博打があるぜ!」
バルドが指さしたのは、木製の円盤を使った博打の露店だった。赤や黒の区分けがされ、針がくるくる回ってはどこに止まるかを当てる単純な遊び。
「ははっ、こりゃまた古典的だな」
真時は腕を組み、妙に得意げな顔をする。
「なに? 知ってるのか?」
ユリクが首を傾げると、真時は待ってましたとばかりに語り始めた。
「俺が住んでいた地域でよく見るやつだな。確率的には赤か黒にかけるのが基本なんだよ。ほら、単純計算だと五割近い確率で勝てるからな。見る限り周りの奴は素人。だから俺はあえて――」
「いいからやってみろよ」
バルドがにやにや笑いながら、背中を押す。
「お、おう……わかったよ」
真時はしぶしぶ懐から銅貨3枚を取り出し、赤に全額を置いた。
「さあ回すぞー!」
露天の親父が掛け声とともに針を勢いよく回す。円盤がカラカラと鳴り、群衆が固唾を飲んで見守った。
――針が止まる。
「……黒だな」
親父が宣言した瞬間、周囲から「おぉ〜!」と声が上がった。
「ちょ、ちょっと待て、次だ次! 確率の波は収束するんだよ!」
真時はムキになって、続けて赤枠に銅貨置くが――。
二回目、また黒。
三回目、またまた黒。
「……」
真時の手元は空になっていた。
「なあ真時、確率の波ってやつはいつ来るんだ?」
バルドが腹を抱えて笑う。
「さっきの偉そうな解説はなんだったんだよ」
ユリクまで肩を震わせる。
「ふ、ふん……ちょっと今日はツキが悪かっただけだ」
真時は顔を真っ赤にして言い訳するが、仲間たちの笑いはしばらく止まらなかった。
――財布は軽くなったが、道中の笑い話には困らない。そんな小さな寄り道だった。
――王都・安宿の食堂。
木製のテーブルに並んだのは、香辛料の効いた肉の煮込みと黒パン、そして安ワイン。夕方の人混みと賑わいの中、四人は席を囲んでいた。
「なあ真時、さっきの顔、忘れらんねぇわ」
バルドが豪快に笑いながら、ワインの杯を傾ける。
「“確率がどうのこうの”とか言ってたくせに、一発も当てられねぇんだからよ!」
「ぐっ……」
真時はスプーンを止め、赤くなった顔をそむける。
「ま、気にすんな。博打は運任せってことだ」
レオンが肉を大きく切り分けながら言う。巨体の彼が食事に集中すると、食堂の空気が妙に落ち着いて見えた。
「でもよ」
ユリクはパンをちぎりながら首を傾げる。
「運任せで済む話と、そうじゃない話が最近は多すぎる。村で見たあの神様の件とか、ゴブリンの大群とか……偶然じゃ片付けられねぇ」
「……だな」
レオンが低くうなずき、バルドも笑いを収めて真顔になる。
真時は苦笑しつつ、スプーンを置いた。
「結局は情報不足なんだよ。だからまずはギルドで情報を漁ろう。依頼掲示板に何か出てるかもしれないしな」
「よし、明日の朝はギルドだな」
バルドが拳を軽く握り、仲間たちも頷いた。
――食事を終えた四人は、それぞれ杯を掲げる。
次の冒険が、もう目の前に迫っている気がしていた。




