帰途
――村を後にし、王都へと続く街道。
空は高く澄み、朝露に濡れた草が風に揺れていた。
真時たちは並んで歩いていた。村からの別れ際、涙を浮かべながら感謝を告げた人々の姿がまだ目に焼き付いている。
レオンが腕を組み、しみじみと呟いた。
「……あの村、きっともう大丈夫だな。祭りみたいな形で祠を守るなら、二度と忘れることはないだろう」
ユリクが軽く笑って肩をすくめる。
「俺たち、神様を救ったってことになるのか? なんだか不思議な気分だ」
「救ったというより、思い出すきっかけを作っただけさ」
真時は小さく答えた。自分は神を知らなかったが、それでも村人たちが互いを信じ直す姿を見られたのは、胸に残るものがあった。
その言葉に、バルドが大きく頷いた。
「だがよ、あの光……ただの気のせいじゃねぇよな? お前、何か聞いたんだろ?」
真時は一瞬言葉に詰まり、やがて静かに頷いた。
「……ああ。『ありがとう』って。それだけだよ」
仲間たちはしばらく黙り、やがてレオンが口を開く。
「それなら十分だ。俺たちもあの村も、忘れないようにするさ」
鳥のさえずりが頭上を抜け、街道の向こうに王都の石壁が遠く霞んで見えてきた。
笑い合う声と、穏やかな沈黙が交互に続きながら、一行は王都へと歩を進めていく。
街道の途中。
森を抜ける細い道を進んでいた時だった。
先頭を歩いていたバルドが、突然足を止める。
「……おい、道の真ん中に、何か落ちてるぞ」
近づいてみると、道の脇に壊れた荷車と木箱が散乱していた。中身は布や穀物らしい。
ユリクが眉をひそめる。
「盗賊の仕業か……? 人影は見えないけど」
レオンが盾を正面にし、周囲を見渡す。
「油断するな。まだ近くに潜んでいるかもしれん」
その時、木箱の影から「ひぃっ……!」と小さな声がした。
覗き込むと、泥だらけの旅商人らしき男が震えて身を隠していた。
「た、助けてください! 盗賊に襲われて……荷車も仲間も……私は運良く逃げ延びましたが……!」
泥だらけの旅商人が震える声で訴えた直後だった。
「ひっ……! ま、まだ来ます!」
木々の影から数人の男たちが飛び出してきた。粗末な革鎧に錆びた剣や棍棒。
盗賊だ。
「へっへっへ……余計な奴らが首を突っ込みやがったな」
「荷を置いてけ! 命までは取らねぇよ!」
レオンが商人を盾の後ろに隠し、
「やはり来たか。真時、後ろに下がれ!」
後ろに下がりながら,真時は剣を抜き構える。
「へっ、こいつらなら俺に任せろ!」
バルドが笑いながら剣を構えると、地響きのような声で叫んだ。
「かかって来やがれぇ!」
盗賊の一人がユリクに飛びかかるが、ユリクの矢が素早く弦を鳴らし、相手の手から武器を弾き飛ばす。
「俺に突っ込むなんて、無謀だろ」
バルドの剣が豪快に振り下ろされ、盗賊の剣を真っ二つに折る。
「おらどうした! 腰が引けてるぞ!」
残った盗賊は、あっという間に逃げ出した。
商人は腰を抜かしたまま、必死に頭を下げる。
「た、助かりました……! 王都に戻ったら必ず恩は返します!」
真時は息を整えながら、仲間たちを見回した。
(……俺も少しずつ、この世界で立っていけるようにならなきゃ)
――こうして小さな戦いを終えた彼らは、再び王都への道を歩み始めるのだった。




