撤退
赤い怪物が咆哮し、四人に襲いかかる。
真時は膝をついたまま、まだ消え残るスロットの残像を呆然と見ていた。
《メダルが不足しています》――その冷たい文字が頭から離れない。
「真時!」
レオンが叫び、彼の肩を掴んで後方へ引き寄せた。
「立てるか!? ここは引くぞ!」
「だ、だけど……! 村が……!」
真時は必死に言葉を絞り出す。
バルドが剣を振り回しながら怪物の爪を受け止め、火花を散らした。
「村を守るには、まず俺たちが生き残んなきゃならねぇだろ!」
ユリクが次々と矢を射ち、怪物の視線を逸らす。
「後退しろ! 俺が足を止める!」
矢は怪物の前足や顔に突き刺さり、わずかな隙を作る。
その間にレオンが盾で道を切り開き、真時を支えながら後方へと押し出した。
「真時、歩け!」
「……ああっ……!」
必死に足を動かす真時。その背を庇うように、バルドとレオンが壁となり、ユリクが後方から牽制を続ける。
赤い怪物は怒りに満ちた咆哮を上げ、祠の周囲を蹴散らしながら追いすがる。
だが四人は歯を食いしばり、林の奥へと退いた。
――しばらく走り抜け、ようやく怪物の気配が遠のく。
荒い息をつき、全員が倒れ込むように膝をついた。
レオンが盾を地面に突き立て、苦々しく呟く。
「……くそ……あれを放っておいたら、いずれ村は襲われる。けど今の俺たちじゃ勝てない」
バルドが拳を握りしめる。
「ちきしょう……退くしかなかったとはいえ、あんなもん野放しにしておくのかよ」
ユリクは静かに真時を見る。
「真時……さっきのは、失敗だったのか?」
真時は唇をかみしめ、俯いた。
「……金貨一枚じゃ、足りなかった。スロットは……動きもしなかったんだ」
三人は顔を見合わせ、重苦しい沈黙が落ちる。
やがてレオンが低く言った。
「……なら、次に挑むまでに準備を整えるしかないな。武器も、策も、そして……必要なら金も」
真時は拳を握りしめ、強い眼差しで仲間を見返した。
「必ず……もう一度あそこに行く。あの怪物を止めるために」
だが、彼らにはまだ足りないものがある。
それをどう補うかが、次の鍵となるのだった。




