タリス村.外れ
――タリス村の外れ。
赤い光が導いた先は、村から少し離れた林の中だった。
木々の間は昼でも薄暗く、湿った空気が肌にまとわりつく。鳥の鳴き声も途絶え、不気味な静けさが辺りを支配していた。
真時は額の汗をぬぐいながら歩を進める。胸の奥にまだ鈍い痛みが残っていたが、足取りを止めるわけにはいかない。
ユリクが弓を構え、低い声で言う。
「……気配が濃いな。何かがいる」
レオンは盾を持ち直し、警戒の目を周囲に巡らせる。
「真時、光はどのあたりだ?」
真時は目を細め、残像のように視界に映る赤い光を追う。
「……この先だ。古い祠みたいな……建物がある」
進むにつれて、確かに苔むした石造りの祠が木々の間に姿を現した。扉は外れ、黒い穴のように口を開けている。その隙間から、赤い光が脈打つように漏れ出していた。
バルドが眉をひそめ、唸る。
「こいつは……ただの光じゃねぇな。禍々しい気配がする」
ユリクが小声で言う。
「何かの封印……それとも、魔獣を呼び寄せているのか」
レオンは一同を見回し、静かに告げる。
「不用意に近づけば危険だ。だが、村を守るには原因を突き止めるしかない」
真時は胸に残る痛みに耐えながら、祠をじっと見据える。
(……スキルで見えた光は、ここから出ている。間違いない……)
彼の決意に呼応するように、仲間たちも武器を握り直した。
その瞬間、祠の奥から低い唸り声が響いた。
地面が微かに震え、赤い光が一層強く脈打つ。
バルドが息を呑む。
「来るぞ……!」
四人は緊張を高め、祠の闇の奥に目を凝らした。
闇の中から、ずるり、と重たい音が響いた。石を引きずるような、肉が擦れるような、不快な音。
やがて赤い光に照らされ、影がゆらりと揺れる。
ユリクが矢を番えながら囁いた。
「……人の形……か? いや、違う……」
レオンが低く答える。
「魔獣でも人でもない……何かが歪んでいる」
祠の闇から姿を現したのは、黒い毛並みに覆われた巨体だった。四足だが背は人間のように湾曲し、頭部にはねじれた角が突き出している。目はぎらつく赤で、口からは涎と腐臭を放っていた。
バルドが歯を食いしばる。
「うわ……こいつ、ただの獣じゃねぇ! 腐った魔力をまとってやがる」
真時の胸に再び鋭い痛みが走った。先ほどのスキルで見た光と、この怪物から放たれる赤が重なって見える。
「……間違いない、こいつが光の原因だ……!」
怪物は低く唸り声を上げると、祠の石柱を爪で引き裂いた。石片が飛び散り、地面に赤い火花のようなものが散る。
レオンが盾を構え、仲間に指示を飛ばす。
「バルドは俺と前衛を! ユリクは援護を頼む! 真時は……無理をするな、状況を見極めて動け!」
バルドが剣を構え、にやりと笑う。
「おう!腕が鳴るぜ!」
ユリクは弦を引き絞り、目を細めた。
「……狙うは心臓か、目か。弱点を見つける」
真時は息を整え、手のひらを握り締める。
(スキルを使うか……いや、もう少し状況を見てからだ。こいつがどんな動きをするか……!)
――赤い光に包まれた怪物が、轟音を立てて四人へ突進してきた。




