タリス村.2
――タリス村・集落内。
四人は農夫に案内され、村の広場へと入った。
広場には数軒の木造家屋と、小さな井戸があり、村人たちが不安そうに顔を出している。
「皆さん、ありがとうございます……」
農夫は深く頭を下げ、四人を村長の家へ案内した。
小さな家の中には、年配の村長が机に突っ伏すように座っていた。
「……冒険者の方々か」
村長の声は疲れに満ちている。
「最近の被害は、ただの害獣とは思えぬ。夜になると、畑や納屋が無残に荒らされ、家畜は血を流して……」
バルドが拳を握りしめる。
「くそ……許せねぇな!」
「落ち着け」
レオンが制する。
「まずは状況を整理しよう。被害はいつ頃からだ?」
「三週間ほど前からだ」
村長は目を伏せる。
「最初は数匹の狼や猪だった。しかし次第に数が増え、夜中に柵を破って家畜を襲うようになった。昨夜は……なんと十頭以上の羊がやられた」
ユリクが眉をひそめる。
「一度に十頭以上……普通の野生動物ではありえない」
「そうだな」
レオンが地図を広げ、村全体の状況を確認する。
「被害が集中している場所はここか……柵の南側辺りだな」
「さらに異常なことに……」
村長が小さな声で言う。
「夜中に奇妙な光を見たという者が何人かいる。炎のように揺れる赤い光……それが、被害のあった場所で必ず目撃されている」
真時は思わず息を飲む。
(光……? 魔獣が関わっているのか……)
「……なるほど。光の目撃は、獣の種類や襲撃の原因を知る手がかりになるかもしれん」
レオンは地図に印をつけながら言った。
「俺たちで村を回って、現場を確認してみる。昼間なら手がかりも見つけやすいだろう」
村長は深く頭を下げる。
「どうか……どうかお願いします。村を守ってください」
四人は顔を見合わせ、頷き合った。
それぞれが覚悟を固め、村の調査へと歩を進める。
村の昼間の調査が始まる。
畑や柵の破壊跡、獣の足跡、そして赤い光の痕跡。
冒険者たちの目は依頼に真剣に向けられていた。
――タリス村・被害現場。
四人は昨夜の被害が特に酷かった南側の柵へと向かった。
倒れた羊や豚が散らばり、血が土を赤く染めている。
しかし、バルドが近づき、首をかしげる。
「……ん?」
彼が手に取った羊の足跡や羽毛を確認しながら言う。
「血は出てるけど、肉が食われた形跡がないぞ?」
ユリクも蹲り、鼻を近づける。
「……匂いもほとんどない。普通の捕食なら、血の匂いと肉の残骸が残るはずだ」
真時は倒れた家畜の身体を見下ろす。
(……確かに。殺されているのに、食べられていない……)
レオンは眉をひそめ、状況を冷静に分析する。
「猟獣や魔獣による単純な襲撃じゃないな。力で殺すことが目的……いや、違う……何かの意思が働いている」
「意思……?」
バルドが疑問を口にする。
「そうだ」
ユリクが赤い光の目撃談を思い出しながら言う。
「ただの野生の群れでは、こうはならない。殺すだけで食べない……まるで誰かに操られているかのようだ」
真時の胸に、不安と戦慄が走る。
(……何なんだ……)
近くにいた村人も四人の様子をじっと見つめる。
「……一体……なんで……」
声にならない嘆きが広場に漂った。
レオンは地図を広げ、被害現場と村全体の状況を再確認する。
「この異常な殺戮の範囲と、光の目撃情報……手分けして調べる必要がある。まずは現場の足跡、そして光の正体だ」
四人は互いに視線を交わし、覚悟を固めた。




