宴
――夜。
冒険者たちで賑わう酒場の奥、四人は丸い木卓を囲んでいた。
樽から注がれたばかりの酒が泡を立て、香ばしい肉が皿いっぱいに盛られている。
「坂田、飲め!」
バルドが大ジョッキを押し付ける。
「いや、まだ本調子じゃ……」
と言いながらも、坂田は笑って受け取り、喉を鳴らした。
苦みと熱が胸を走り、体の奥に火が灯るようだった。
「ほら見ろ! こいつ、まだまだ元気だ!」
バルドの大声に、酒場中が笑い声をあげる。
レオンは少し離れた席で杯を傾け、低く呟いた。
「……だが、気を抜くなよ。あの魔獣一体だけで済んだから良かったが、また来るかもしれん」
ユリクが真剣な顔で頷く。
「確かに……あの夜の黒煙、まるで森の奥に潜む何かの前触れのようだった」
坂田は杯を置き、ゆっくりと三人を見る。
「俺の力は……長くは使えない。だが……それでも、仲間のためなら――」
「やめろ」
ユリクがきっぱり遮った。
「俺たち四人だ。お前一人で全部背負うな」
レオンも短く言葉を添える。
「……ああ。勝負は四人で賭けて、四人で拾う。それが筋だ」
バルドがジョッキをぶつけるように坂田の肩を叩いた。
「そういうこった! 命を張る時は、みんなまとめて張る。お前だけが特別じゃねぇ!」
坂田はしばし黙り、そして大きく笑った。
「……そうだな。俺たちは四人で一つだ」
酒場の喧騒の中、四つのジョッキが重なり、甲高い音を響かせた。
――その夜の笑い声は、長く街に響き渡った。
だが、森の奥では静かに蠢く影があった。
燃え残った大地の下から、じわりと瘴気が滲み出す。
次なる試練が、もうそこまで迫っていた。




