真実
――数刻後。
避難所の中は、静けさに包まれていた。外では兵士や町人たちが復興のために動き始め、戦いの熱気はようやく冷めつつある。
坂田は再びまぶたを開けた。先ほどよりもはっきりとした意識が戻り、痛みを抱えながらも身体を起こそうとする。
「……無茶するな」
すぐにバルドが手を伸ばし、坂田の肩を押さえた。
「お前はまだ死にかけなんだ。安静にしてろ」
だが坂田は、唇を震わせながら首を横に振る。
「……今、話しておかなきゃ……だめなんだ」
その必死の声音に、三人は自然と耳を傾けた。
坂田は苦しげに息を吐きながら、言葉を絞り出す。
「俺の力……あれは剣でも、魔法でもない。俺の……スキルだ」
ユリクが目を見開く。
「スキル……?」
坂田は頷き、続ける。
「俺のスキルは、ギャンブル、要は博打だ。さっきのは競馬だ。俺自身にも……よく分からない。ただ……銀貨や代償を使って、幻影の馬を呼び出し、運命を一瞬だけ……走らせる」
レオンが思わず吹き出した。
「……競馬? ははっ……戦場で馬を賭け事に使うってか。冗談だろ」
しかし坂田の目は真剣だった。
「冗談じゃない……。あのとき、俺は全てを賭けた。だから魔獣を倒せたんだ。でも代わりに……命が削られる。あの吐血も……その代償だ」
言葉の重さに、三人は笑うことも反論することもできなかった。
バルドは唸るように言った。
「……つまり、お前の力は、命を削る博打みてぇなもんだってことか」
「……ああ」
坂田は苦笑した。
「次は……もう立ち上がれないかもしれない。それでも……仲間を守るためなら、俺は……使う」
沈黙。
レオンは長い息を吐き、窓の外を見やった。
「ほんとにどうしようもねぇ奴だな。そんな力に頼らなきゃいけないほど、この街は脆いってことか……」
ユリクは盾を胸に抱え直し、真剣な眼差しで坂田を見た。
「……分かった。なら、俺たちが支える。お前の命を削らせないように、俺たちが前に立つ」
バルドは大きく頷いた。
「そうだ。お前が博打を打つときは、俺が前で敵を叩き潰す。そうすりゃ少しは楽できるだろう」
坂田の胸に、じわりと熱が広がる。
かつて孤独の中で目覚めた奇妙なスキル。それは、仲間と共にあって初めて意味を持つ。
坂田は目を伏せ、かすれ声で呟いた。
「……ありがとう……」
その瞬間、彼の決死の力は、ただの博打ではなく、仲間と生き抜くための武器へと変わり始めていた。




