朝
――翌朝。
防壁の外はまだ焦げ臭く、夜の戦いの余韻を残していた。
坂田は避難所の粗末な寝台に横たわり、浅い呼吸を繰り返している。
バルドは腕を組んだまま、ずっと坂田の傍を離れようとしなかった。
「……あんな力、俺は見たことがねぇ。剣でも槍でもねぇ、まるで戦場そのものを塗り替える力だ」
低い声に、レオンが鼻で笑った。
「だが、博打みたいなもんだろうな。使えば勝てる、だが使った本人が死にかける。……そんなもの、長くはもたねぇ」
ユリクは沈黙していた。盾を抱き締めるようにして、じっと坂田の寝顔を見つめる。
彼だけは、坂田の発した「決死の気迫」を忘れられなかった。
血を吐き、崩れ落ちながら、それでも仲間の背に風を送り込むように立ち続けた姿を。
「……あのとき、俺たちは守られたんだ」
ユリクがぽつりと呟く。
「代償が何であろうと、あいつは命を張って戦った。それだけは……揺るがない」
仲間の間に重い沈黙が流れたそのとき――。
坂田のまぶたが、かすかに震えた。
唇が動く。声にならない声が漏れ、やがてひどくかすれた囁きが漏れる。
「……勝った……んだよな……?」
全員が息を呑んだ。
バルドが椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。
「ああ! お前のおかげでな! 魔獣どもは全部ぶっ倒した!」
その声に応えるように、坂田の目が薄く開かれた。
視界はまだ霞んでいたが、確かに仲間たちの姿を捉えている。
レオンは肩を竦めた。
「ったく……死人みたいな顔して、それでも確認しなきゃ気が済まねぇのか」
坂田は息を荒くしながら、かろうじて言葉を紡いだ。
「……そっか……なら……よかった……」
力尽きるように瞼を閉じたが、その口元には確かな安堵の色が浮かんでいた。
仲間たちは顔を見合わせ、しばし言葉を失った。
戦いは終わった。街は守られた。
――そして、坂田もまだ生きている。
その事実が、彼らの胸に何より重く響いていた。




