正答
――第三階層。
扉を抜けた瞬間、五人を包んだのは――静謐な光だった。
先ほどまでの荒れ狂う風も雷もなく、ただ、柔らかな白光が辺り一面に満ちている。
足元は大理石のような白い床。
中央には巨大な円形の魔法陣が刻まれ、そこから天へ向かって、淡い光の柱が伸びていた。
「……ここ、は……?」
ユリクが小さく呟く。
「何も感じない。魔力の流れすら……止まってる?」
クレアが眉をひそめた。
「いや、違う」
真時がゆっくりと周囲を見渡す。
「“静かすぎる”んだ。何かが、俺たちを見てる」
その瞬間――
光の柱が脈打つように明滅し、淡い声が空間に響き渡った。
『――ようこそ、魂の間へ。』
「!?」
全員が構える。
『戦いを望む者は、ここにはいない。ここで問うのは――己の“真実”。』
光の柱の中に、ひとつの姿が現れた。
透き通るような白衣をまとい、顔のない存在。
声は男とも女ともつかない、不思議な響きをしていた。
『お前たちの力は確かだ。しかし――“心”はどうだ?』
レオンが一歩前に出た。
「つまり……俺たちの心を試すってことか」
『その通り。次の扉を開くには、三つの問いに正しく答えよ。
ただし、偽りを語る者には――“魂の迷路”が待つ。』
「……迷路ね。まさか、嘘ついたら永遠に出られないとか?」
ユリクが苦笑する。
『第一の問い――』
空気が揺らぎ、足元に光の輪が浮かぶ。
それぞれの輪に、五人が自然と立たされた。
『“仲間”とは、何だ?』
その言葉に、一瞬で場の空気が張り詰めた。
レオンが最初に口を開く。
「仲間とは――背中を預けられる存在だ。生き残るために信じる、戦友。」
クレアは静かに首を振る。
「私は違うと思う。仲間って、ただ戦うだけじゃない。“弱さ”を見せても壊れない関係……それが本当の仲間。」
バルドは少し考えてから、にやりと笑った。
「俺はもっと単純だな。どんな状況でも、冗談が言える奴。それでいい。」
「俺は……」
ユリクが低く呟く。
「誰かの“夢”を笑わない奴。俺にとって、それが仲間だ。」
全員の視線が、真時へ向く。
真時は一度目を閉じ、ゆっくり口を開いた。
「仲間ってのは――“自分ひとりじゃ届かない場所”へ連れてってくれる存在、だと思う。
……そして、俺も誰かを連れていけるように、そうありたい。」
光が一際強く輝いた。
『――正答。』
温かい風が吹き抜け、五人の足元の輪が光の粒となって消えた。
「……通った?」
ユリクが目を丸くする。
『第二の問い。
“力”とは、何のために使うものか?』
今度は誰も、すぐには答えなかった。
沈黙ののち、レオンが低く呟く。
「守るためだ。俺は……かつて守れなかった仲間がいる。」
クレアがそっと続ける。
「私は、理解するため。力がなければ、何も変えられない。」
ユリクは肩をすくめて笑う。
「俺は、生き残るため。理由なんて後からついてくるさ。」
バルドは拳を握りしめた。
「俺は――誰かの“希望”になるため。強さってのは、見せるもんじゃなく、支えるもんだ。」
真時は、静かに銀貨を見つめた。
「……俺は、繋ぐためだ。力で仲間を支えて、絆を繋げる。」
光がまた、穏やかに脈動する。
『――正答。』
床に刻まれた紋章が、ゆっくりと次の形へ変化していく。
『第三の問い。
“お前たち自身”は、何者だ?』
全員が一瞬、息を呑んだ。
クレアが小さく笑う。
「……最後にそれを聞くのね」
真時は前へ出て、光の柱を見上げた。
「俺たちは――“旅の途中”の人間だ。
過去も、目的も違う。でも、“明日を選び取る力”を持ってる。
だからこそ、ここまで来た。」
数秒の静寂。
やがて、光の柱がゆっくりと揺れ、声が響いた。
『……見事。すべての問いに、偽りなし。』
天井が割れ、上空に金色の門が開く。
柔らかな光が降り注ぎ、五人の身体を包み込んだ。
「試練、突破……ってことでいいのか?」
ユリクが苦笑する。
『だが、覚えておけ。
“心を知る者”こそが、真の力を扱う。
次の階層で、お前たちの“魂”が試される。』
光が一気に膨張し、視界が真白に染まった。




