試練の終わり
――光の道を進むと、やがてその先に「影」が立っていた。
だがそれは先ほどのような黒く歪んだ姿ではなかった。眩い光を帯び、同じ姿をしたもう一人の自分――光の像のような存在が、静かに微笑んでいた。
レオンの前に立った光の影は、盾を掲げながら言った。
「守ることは臆病ではない。恐れを抱くからこそ、強くなれる。お前の盾は、もう一人の自分も信じている」
レオンは短く息を吐き、深く頷いた。
クレアの前に立つ光は、祈りの姿勢を取ったまま、柔らかく囁いた。
「弱さを恥じなくていい。弱さを認めるからこそ、祈りは力になる。お前は“逃げない心”を持っている」
クレアは涙を拭い、微笑んだ。
バルドの前に現れた光は、大笑いをやめ、穏やかな目で言った。
「戦いを楽しむ自分も、お前の一部だ。だが、お前は一人ではなく、共に笑う仲間を求めている。それが、お前の強さだ」
バルドは剣を肩に担ぎ、「ああ、そうだな」と笑みを返した。
ユリクの前に立つ光は、矢を下ろし、真っ直ぐに言った。
「疑う心は、裏切りではない。考え、迷いながらも信じると選ぶ――それがお前の誇りだ。お前は一人じゃない」
ユリクは黙って弓を下ろし、その言葉を胸に刻んだ。
そして最後に、真時の前に自分自身の光が立った。
それは血のメダルを持ち、スロット台を背にした姿だった。
「……真時。これからも代償は続く。血を吐き、命を削ることもあるだろう」
真時は唇を噛み、拳を握る。
だが光は続けた。
「だからこそ――その痛みは、これからは俺が引き受ける。お前が歩むために。仲間のために。未来のために」
真時の胸に、熱いものが込み上げた。
「……一緒に、行こう」
「もちろんだ」
そう言って光の影は、真時の胸に吸い込まれるように消えていった。仲間の光も同じように消え、それぞれの中へと溶けていく。
残されたのは、淡い光に照らされた一行だけ。
その胸には新たな決意と――光を抱いた影の力が宿っていた。
光が薄れ、古の輪の森の中央に再び現れた一行。
その輪の中には、彼らと共に村長の姿もあった。
長い旅を見守るように静かに佇んでいた村長は、光に照らされた面持ちで皆を見渡し、深く頷いた。
「……お前たちは、影を越えた。
心に刻んだ光と影は、もはや切り離せぬもの。
それを受け入れた時、お前たちは“真の勇者たち”となったのだ」
その言葉に、仲間たちは一瞬言葉を失った。
けれど次の瞬間、バルドが大げさに肩をすくめ、笑みを浮かべた。
「勇者かどうかはともかく……腹が減ったな。村に戻って、まずは肉でも焼こうぜ!」
レオンは吹き出しそうになりながらも、盾を軽く掲げて笑った。
クレアは涙ぐんだ目で「村のみんなに伝えなくちゃ」と呟き、ユリクは静かに弓を下ろして「戻ろう」と言った。
村長は目を細め、杖をついて歩き出す。
「そうだな。森もお前たちを送り出す準備をしている。
――さあ、帰ろう。」
木々の間に光の道が開ける。
鳥たちが羽ばたき、森が祝福するかのようにざわめきを返す中、
一行は村長と共に、古の輪の森を後にした。




