ギルド報告 その後
ギルドの扉を押し開けると、夕暮れの光が差し込む広間には、依頼から戻った冒険者たちの声が飛び交っていた。
坂田たちは受付へ向かい、薬草採取の依頼達成を報告する。
「確認しました。薬草は確かに……はい、依頼達成ですね」
受付嬢が柔らかく微笑み、報酬を差し出した。
坂田の分は銅貨が少しだけ。
宿代にも足りるかどうか――だが懐に銀貨がないことを思い出し、胸の奥が冷たくなる。
「お疲れ様でした。またのご依頼を」
ギルドを出ると、バルドが大きな声を上げた。
「よし! 依頼も終わったし、ひとまず飲もうぜ!」
彼が向かったのは、ギルド近くの小さな飲み屋だった。
「坂田は新人だからな、俺らが奢ってやるよ」
木の扉を開けると、酒と肉の匂いが漂い、冒険者たちの笑い声が響いていた。
四人は片隅の席に腰を下ろす。ジョッキが運ばれ、肉の皿が並ぶ。
最初は和やかな会話だった。
今日の依頼のこと、狼との戦いのこと。
だが、ジョッキが半分ほど空になった頃――
レオンが、ずっと抑えていた言葉を吐き出した。
「なあ、坂田」
坂田は手を止め、視線を上げる。
「……何だ?」
「白昼堂々、馬が走ったよな? あれは何だ?」
レオンの目は鋭く、逃げ場を与えない。
ユリクも視線を落とし、静かな声で口を開いた。
「本当に……あれは、坂田がやったのか? 俺たちの目の前で、盗人が吹っ飛んだ……」
バルドは黙って酒を飲んでいたが、やがてジョッキを置いた。
「……俺も聞きたい。お前の力は何なんだ?」
三人の視線が重くのしかかる。
笑い声に満ちた店内で、この卓だけが異様に静まり返っていた。
坂田の喉がひりつき、指先が震える。
(言えるか……? 使ったスキルが“競馬”だなんて。信じてもらえるか? いや、利用されるだけじゃ……)
ジョッキを握る手に力が入り、沈黙が続く。
やがてレオンが低く告げる。
「俺たちに隠すなら、それでもいい。けどな――」
彼の声は冷たかった。
「次に同じ状況になった時、俺たちはお前を仲間として信用できねぇ」
坂田の心臓が跳ね上がった。
――選択を迫られている。
「……」
口を開こうとした瞬間、店の扉が乱暴に開き、別の冒険者の怒声が響いた。
「大変だ! 北門に魔獣が現れたぞ!」
店内がざわつき、客たちが次々に立ち上がる。
バルドたちも即座に腰を上げ、武器に手をかけた。
そして、レオンが坂田を振り返る。
「……どうする、新米? 今度はごまかせねぇぞ」
坂田の胸に、再びあのファンファーレが遠く鳴り響いていた。




