街にて.2
広場のざわめきの中、兵士たちは盗人を連れ去っていった。
人々は「何だったんだ今の……」「風の魔法か?」「いや、馬を見たぞ!」と口々に噂し、混乱は収まらない。
坂田は荒い息を整えながら、懐の袋を握った。
中は空。銀貨はすべて消えていた。
その時――背中に突き刺さるような視線を感じた。
振り返れば、三人の冒険者がこちらを見ていた。
バルドは腕を組み、険しい目を向ける。
「……坂田。お前、何をした?」
レオンは眉を吊り上げ、低い声で続ける。
「ただの新米が、盗人を馬でぶっ飛ばすなんて芸当できるか? あれは魔法だろ……いや、それとも特殊なスキルか?」
ユリクは戸惑いを隠せずに坂田を見ていた。
「さっきの戦いじゃ……ほとんど剣を振れなかったのに。どうして、今になって……?」
三人の視線が絡み合い、坂田の喉が詰まる。
心臓が早鐘を打ち、口の中が乾いていく。
(……やばい。このスキルを知られたら……!)
坂田は無理に笑みを作り、肩をすくめた。
「俺にもよく分からない。ただ……気づいたら身体が勝手に動いてたんだ」
レオンが目を細める。
「……はぐらかす気か?」
一触即発の空気。
だが、バルドが大きく息を吐いて割って入った。
「やめろ。ここで騒いでも仕方ねぇ。少なくとも、こいつは俺たちの命を救ったんだ。そうだろ?」
レオンは舌打ちし、視線を逸らした。
ユリクはまだ納得できない顔をしている。
坂田は胸の奥で冷たいものを感じていた。
――この街で、もう隠し通せないかもしれない




