持久戦.2
――ガリニ砦・外、防衛線
巨兵が一歩を踏み出すたびに、大地が揺れる。
屍兵の群れですら、その巨体の前ではただの土くれのように踏み潰されていった。
「来るぞ! 構えろッ!」
レオンが盾を掲げ、前線の冒険者と傭兵たちが声を殺して備える。
次の瞬間――。
轟音と共に巨兵の漆黒の大剣が振り下ろされた。
ガァァンッ!!
盾を構えた傭兵が数人まとめて吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
悲鳴が響き、血が散った。
「持ちこたえろッ! 立て、まだ死ぬな!」
レオンが叫びながら、全身強化でその刃を真正面から受け止めた。
鉄と鉄が噛み合う轟音。
押し返されそうになるレオンを、背後から二人、三人と仲間が支える。
「――氷槍よ!」
クレアが放った氷の槍が巨兵の膝を貫き、一瞬だけ動きが鈍る。
「今だ、脚を狙え!」
ユリクの矢が膝関節へ突き刺さり、バルドが渾身の一撃を叩き込む。
火花と共に装甲が削れ、巨兵がよろめいた。
だが次の瞬間、巨兵の体内で青白い光が脈動し、ダメージなどなかったかのように立ち直る。
「チッ……本当に止めるしかできねぇってわけか!」
バルドが歯噛みしながら後退する。
巨兵の盾のような左腕が振り抜かれる。
ドォン――!
数人がまとめて薙ぎ払われ、土煙の中へ消えた。
「仲間を引きずれ! 倒れたままにするな!」
レオンが怒鳴り、別の冒険者が必死に負傷者を抱え上げる。
真時は剣を構え、荒い息を吐きながら心の奥で叫ぶ。
(……時間を稼ぐんだ、今は! 援軍が来るまで……絶対に退かない!)
再び巨兵が大剣を振りかぶる。
夜空にその刃が青白く輝き、次の瞬間、防衛線に向かって叩き落とされた――。
轟音。
絶望。
それでも冒険者と傭兵たちは、必死に盾を構え、剣を突き立てた。
――援軍は、まだ来ない。
巨兵の大剣が振り下ろされ、盾の列が粉砕された。
轟音と共に土煙が舞い上がり、数名の傭兵が血を吐いて倒れる。
「ぐっ……! まだ持ちこたえろ!」
レオンが踏み止まり、仲間の死体すら盾代わりに前へと押し戻す。
バルドが雄叫びをあげ、巨兵の脚に斬りかかる。
「せめて膝を折らせろォッ!」
鋼のような装甲を斬り裂くが、返す一撃で吹き飛ばされ、地面を転がった。
「バルド!」
ユリクが叫び、矢を連射して巨兵の腕を狙う。
だが、矢は次々と弾かれ、逆に青白い光が矢を焼き尽くしていった。
「……くそっ、効きが悪くなってる!」
「下がりながら撃て! 距離を保て!」
レオンが怒鳴る。
屍兵の群れもなお尽きることなく押し寄せてくる。
防衛線はすでに崩れかけ、負傷者が次々と後方へ運ばれていく。
その時――。
「任せろォォッ!」
一人の傭兵の男が、盾を捨てて両手で大槌を構えた。
全身強化を施し、巨兵の正面に突進する。
「砕け散れえええッ!」
大槌が巨兵の膝を直撃し、轟音と共に関節が沈んだ。
巨兵の動きが一瞬止まる。
「今だ! 全員叩き込め!」
レオンが叫び、冒険者たちが一斉に攻撃を集中させる。
矢、魔法、剣――あらゆる攻撃が巨兵の脚へと殺到した。
だがその瞬間、巨兵の胸部から青白い閃光が爆ぜる。
大槌の男が直撃を受け、全身が焼き裂かれた。
「――っ!!!」
光の中で、男は声すら上げられず崩れ落ちた。
「……くそっ、やられた!」
傭兵たちが絶望に顔を歪める。
それでも、彼の一撃で巨兵の動きはわずかに鈍った。
その隙に全員が後退し、崩れかけた防衛線を組み直す。
「無駄死にじゃねぇ! 今の一撃で時間は稼げた!」
レオンが叫び、剣を掲げて仲間を鼓舞する。
「援軍は必ず来る! ここで倒れるな! まだ踏ん張れッ!」
真時は汗に濡れた額を拭い、震える手で剣を握り直す。
(……誰かが倒れても、ここで止めなきゃ……! 俺たちがやるしかない!)
巨兵の影が再び迫る。
その一歩は、確実に彼らの命を削っていた――。




