報告
――ルナロイド・本営・作戦室
厚い木扉を押し開けると、室内には既に複数の将校や参謀が集まっていた。
石造りの壁には松明が灯され、戦地の地図や記録板が所狭しと並ぶ。
空気は重く、しかし確かな「生還の実感」に満ちていた。
ガロルドが声を張る。
「冒険者隊代表、ガロルドただいま戻った! こちら、前線で異変に遭遇した者たちだ」
視線が一斉に真時たちへ注がれる。
鎧の傷跡よりも、彼らの背後に漂う“何か”を感じ取っているのだろう。
白髪の将が低い声で切り出す。
「……戦況は我らに有利と見える。だが、戦場に出現した魔法陣の真意が掴めぬ以上、勝利と呼ぶには早い」
「確かに」別の参謀が頷いた。
「奴らは退いた。だが、敗北を受け入れた顔ではなかった。……これは嵐の前触れだ」
ガロルドが真時を顎で示す。
「――説明してやれ。お前が見たことを」
真時はしばし言葉を探し、やがて静かに口を開いた。
「……空に浮かんだ魔法陣は、死を媒介に動いていたように思う。犠牲を糧に、何かを呼び込もうとしていた。だが、術式は破綻した。理由は……俺にも断言できない。ただ一つ言えるのは、もう“それ”は消えたということだ」
沈黙が落ちる。
やがて将の一人が重く息を吐き、椅子に深く身を預けた。
「……消えた、か。ならば今は勝利として受け取っておこう。しかし――」
彼の目が真時の方に鋭く向けられる。
「その術式を断ったのが偶然でないならば……お前たちが、次の戦場の鍵を握ることになる」
クレアが肩を震わせ、レオンとバルドが互いに目を合わせる。
ユリクは無言で唇を噛み、真時はただ黙ってその視線を受け止めていた。
その時、扉が叩かれ、伝令兵が駆け込んでくる。
「緊急報告! 敵の砦、ガリニ砦より大量の煙が上がっております! ……どうやら、砦を放棄し焼き払っている模様!」
作戦室にざわめきが走る。
「砦を捨てた? 何を企んでいる……」
将校たちが口々に疑念を漏らす中、ガロルドは険しい表情で真時たちへ向き直った。
「……次は必ず、奴らの本意が姿を現す。お前らにも備えてもらうぞ」
その言葉は命令であると同時に、彼らの存在を認める“宣告”でもあった。
夜は更け、城塞の外にはまだ戦の余韻が漂う。
だが確かに、新たな嵐の予兆が迫っていた――。
――闇の中、ガリニ砦跡地。
炎に包まれる石壁の影で、青白い光を宿した兜の「執行者」が天を仰ぐ。
「……次こそ、我らが神は目覚める」
燃えさかる炎の中、その声だけが凍るような冷気を帯びて響き渡っていた。




