賭け金
――ガリニ砦前・戦場
赤黒い魔法陣が空に広がり、血に濡れた大地と呼応するように脈打っていた。
逆さに映る巨大な紋様は、太陽すら覆い隠し、昼であるはずの戦場を闇の帳で包み込む。
敵も味方も、その場で足を止めて空を仰ぎ見ていた。
剣を振るう音も、怒号も、断末魔さえも消え失せ、ただ恐怖と畏怖に縛られた沈黙だけが広がる。
「……なんだ、あれは……」
バルドが剣を握る手を震わせる。
「でかすぎる……魔法陣って規模じゃない……」
レオンの顔から血の気が引いていた。
ユリクは矢を番えたまま動けずにいる。
「こんなもん、降りてきたら……」
クレアは唇を噛み、必死に魔力の流れを追うが、見えたのは絶望的な答えだけだった。
「……これは、む、むり……」
真時の胸中に、言葉にならない直感が突き刺さった。
(……死ぬ。これじゃ、みんな……全員……死ぬ!)
腰のメダルが灼熱を放ち、皮膚を焦がすほどに焼け付く。
思わず握りしめたその瞬間、耳の奥に響くような感覚が走った。
――逃げろ。
――いや、抗え。
――選べ。
重なる声のような、意味を持つかも分からない衝動が真時を襲う。
砦の門前では、黒騎士たちすら剣を下ろし、ひざまずき、空の魔法陣を拝むように祈りを捧げていた。
敵も味方も関係なく、ただその時を待つ者たちのように。
ガロルドでさえ、剣を下げて低く唸る。
「……マジかよ……これは…………!」
真時は息を荒げながら仲間の顔を見渡した。
みんな、必死に恐怖に抗おうとしているが――確信してしまった。
(……このままじゃ、本当に……誰も生き残れない。)
――空の魔法陣は、いよいよ完成の光を放ち始める。




