ルナロイド
――ルナロイド王都・街中
中段チェリーの一行は、長い道のりを経てついにルナロイド王都に到着した。
街に足を踏み入れると、戦争が目前に迫っているとは思えないほどの賑わいが広がっていた。
馬車や徒歩で移動する冒険者、傭兵たちで通りはごった返し、路地や広場には戦闘用の装備を携えた者があふれている。
市場では商人たちが声高に呼び込み、戦場を前にした冒険者や傭兵相手に商売に勤しんでいた。
「新鮮な食料! 防具の修理も承りますぞ!」
「魔法道具各種! 戦いに備えろ!」
バルドは目を輝かせ、思わず口を開く。
「うわ……戦争前の街って、こうも活気があるのかよ!」
ユリクは肩をすくめながらも、冷静に周囲を観察する。
「……騒がしいのは、戦い前の表向きだけかもしれん」
真時は仲間たちの顔を見回す。
(……ここからが本当の戦場……か)
五人はまず冒険者ギルドへ向かい、受付を済ませることにした。
書類を提出し、契約の確認を終えると、宿を取ろうとするが、既に街中の宿は満員で、空きはなかった。
クレアはため息をつき、レオンに向かって言う。
「……仕方ないわね。戦争が近いせいか、宿なんてどこも取れないみたい」
レオンは城壁の方向を見据え、少し考える。
「よし。なら、城壁の近くで野営するしかないな」
周囲を見ると、同じように宿を取れなかった冒険者や傭兵たちがテントを設営していた。
布や革で作られた簡素なテントが並び、戦争を目前に控えた冒険者や、傭兵たちの緊張感と疲労が漂う。
バルドはテントを張りながら、にやりと笑う。
「……ふん、これも戦争前の風景だな。野営だって、ちょっとした冒険気分じゃねぇか!」
ユリクは荷物を整理しながら、冷静に呟く。
「……準備だけはしっかりしておこう」
真時は胸のポケットに手を当て、先日変換したメダルをそっと確かめる。
(……この力も、きっとここで役に立つ、何かの意味があるはずだ……)
夜が近づき、王都の街は灯りで輝き、野営地にも小さな焚き火の炎が揺れる。
五人はそれぞれ思いを胸に、戦場へ向けての夜を迎えるのだった。
――ルナロイド王都・野営地の夜
焚き火の灯りが揺れる中、五人はそれぞれ夜の準備を整えていた。
真時はこれから訪れる戦場に思いを巡らせる。
その時、ユリクが低い声で仲間に告げる。
「ちょっと様子を見てくる。戦場になりそうな場所を、偵察してくる」
レオンが頷き、短く言う。
「気をつけろ。敵に見つかるなよ」
ユリクは焚き火の影に身を潜めつつ、野営地を抜け、王都の北側へと向かった。
街灯も少なく、暗闇の中を進むと、やがて視界が開け、広大な草原が現れる。
草原はだだっ広く、遮蔽物はほとんどなく、風が吹き抜けるだけの平地だ。
月明かりに照らされ、草のざわめきが静かに耳に届く。
ユリクは低く息をつき、独りごちる。
「……ここか。戦場になる場所は……」
広さと見通しの良さから、ルナロイドの重装兵や剣士たちが力勝負で戦える、まさに好都合の地形だと直感する。
彼はさらに周囲を確認し、もし敵がここを利用するなら、どの地点から奇襲が来るか、どこに陣形を組むかを考える。
「なるほど……遮るものは少ない。ルナロイドの強みを活かせる場所だな……」
ユリクは短剣に手をかけ、慎重に草原を一周しながら、仲間に伝えるべき情報を頭にまとめる。
その冷静な観察眼が、翌日の戦いで中段チェリーにとって重要な判断材料となるだろう。
夜風が草を揺らす音だけが響く草原で、ユリクは深く息を吸い、再び野営地へと戻る。
焚き火の炎が遠くに見え、仲間たちの安否を確認すると、静かに夜の闇に溶け込むように歩みを進めた。




