ルナロイドへ
――王都・冒険者ギルド
真時はしばらく黙っていた。仲間たちの決意を前に、胸の奥に重いものが沈んでいくのを感じる。
だが同時に、それを押し上げるような確かな熱もあった。
(……みんながここまで言うんだ。俺だけ怖がって逃げたら、きっと後悔する)
深く息を吸い込み、真時はゆっくりと顔を上げた。
「わかった。俺も行くよ。戦場がどういうものかは分からないけど……みんなと一緒なら、きっと乗り越えられる」
その言葉に、四人の表情が一斉にほころんだ。
バルドが大きく肩を叩き、レオンは静かに頷き、ユリクは口角を上げる。
クレアは、安心したように微笑んだ。
レオンが姿勢を正す。
「よし。じゃあ決まりだな。俺たち『中段チェリー』は、ルナロイドの傭兵として参戦する」
――その瞬間、五人の間に新たな覚悟が結ばれた。
ギルドを出ると、既に王都の冒険者たちの中には、傭兵契約に名を連ねた者たちが隊を組み、街道へと向かっている姿が見えた。
受付で渡された契約証を懐にしまいながら、ユリクがぼやく。
「それにしても……ルナロイドまでは馬車と徒歩を合わせて一か月か。ずいぶん遠いもんだな」
「仕方ないだろう」
レオンが答える。
「街道沿いの村や街を経由して補給しながら進む。俺たちも一緒だ」
バルドがにやりと笑う。
「まあ、退屈はしねぇだろ。どうせ道中でも魔物や山賊に遭うさ。戦に着く前に腕慣らしにはちょうどいい」
クレアは少し険しい顔で呟いた。
「……それでも、ひと月。長い旅になりそうね」
真時は馬車の列を眺めながら、腰の袋を握る。
(戦場に着くまで一か月……。その間に、俺も少しでも慣れておかないと。スキルだって、無駄撃ちはできない)
五人は視線を交わし、馬車の列へと足を踏み出した。
こうして、中段チェリーの新たな大きな戦いへの旅路が始まった。
――街道
秋の乾いた風が吹き抜ける。中段チェリーは街道を進んでいた。
参加するいくつかの冒険者達は、馬車に揺られる者、徒歩で武具を背負う者、それぞれの足取りには一か月先の戦場を思わせる重さが漂っている。
真時たちも歩きながら、道中の様子を眺めていた。
その時――ざわめきが一段と大きくなる。
「おい、見ろ! “獅子と踊る骸骨”だ!」
名前が飛び交った瞬間、周囲の冒険者たちが道を空けるように立ち止まり、期待と畏怖が混じった視線を注ぐ。
列の先から現れたのは六人の冒険者パーティ。
先頭には金色の鬣のような髪をなびかせる大柄の剣士――その姿はまさに「獅子」。
その隣には、黒いローブに骸骨の仮面を付けた男が軽やかな足取りで歩き、まるで踊るように杖を操っていた。
後ろに続く四人も、一目で只者ではないと分かる装備と雰囲気を纏っている。
重装の女戦士、双剣を腰に下げた俊敏そうな青年、弓を携えた長耳のエルフ、そして無表情の僧侶――六人揃って、戦場では名を轟かす傭兵「獅子と踊る骸骨」だ。
「おおおっ……! マジで見ちまった!」
バルドが少年のように目を輝かせ、仲間の肩をがしっと掴んだ。
「ほら見ろよ! あれが“獅子”のガロルドだ! 人間離れした怪力で、戦場じゃ百人切りをやったって話だぜ!」
ユリクが肩をすくめる。
「落ち着けよ、バルド。こっち見られたら恥ずかしいだろ」
「何言ってんだ! 俺ぁ一度でいいから同じ戦場に立ってみたかったんだ!」
バルドはまるで酒でも入ったかのように興奮している。
クレアは冷静に観察していた。
「確かに有名よね……。あれだけの名声を保つなんて、本物の実力者たち」
レオンも頷きながら低く言う。
「“獅子と踊る骸骨”が出るなら、今回の戦はますますルナロイドの勝ちは固いな」
真時は圧倒されながらも、胸の奥で妙な熱を感じていた。
(これが……有名な冒険者たちか。俺たちとは格が違う。でも、いつか……)
金色の髪の剣士ガロルドが視線をこちらに流した。
その一瞬、バルドは息を止め、真時は無意識に拳を握り締めていた。
六人は何事もなかったように列の先頭へと消えていく。
だがその背中は、確かな伝説の重みを残していた。




