村へ
――小さな村・夕暮れ
森を抜けた五人は、夕陽に染まる小さな村の広場に足を踏み入れた。木造の家々の屋根は赤みを帯び、広場では子供たちが遊び、農夫たちが一日の仕事を終えた様子で家路を急いでいる。
真時は足を止め、村人たちに声をかけた。
「皆さん、依頼は無事に完了しました。怪我人もなく、村の安全は確保されています」
農夫の中年の男性がゆっくりと前に進み出る。日焼けした顔には深い安堵の色が浮かんでいた。
「……ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます! これで子供も家畜も安心して過ごせます」
クレアは光球を小さく灯し、子供たちに向かって微笑む。
「もう大丈夫よ。怖がらなくていいの」
子供たちは最初は少し警戒していたが、光球の柔らかい光に安心したように笑顔を見せた。
レオンは盾を軽く叩きながら、村人たちを見渡す。
「依頼は完了した。」
バルドは大剣を肩に担ぎ直し、にこやかに村人に向かう。
「ギルドへの報告も済ませておく。」
ユリクは少し俯いて呼吸を整える。
「……皆、無事でよかった」
その言葉には戦いの重みと、胸に残るわずかな哀惜も含まれていた。
仲間たちも互いに軽く頷き合い、安堵の空気を共有する。
夕陽が広場を橙色に染め、森で感じた緊張や重みを溶かすかのように柔らかく包む。五人は依頼達成の喜びを胸に、次の行動へと心を切り替える準備を始めた。
――村の古屋・夜
村が用意してくれた小さな古屋。木造の建物は古びていたが、屋根はしっかりしており、暖かい火の気配とともに外の冷気を遮っていた。五人は床に近い簡素な寝具を広げ、戦いの疲れを癒すために横になった。
真時は腰の袋から銀貨を数枚取り出し、手のひらで軽く転がす。ユリクは弓を脇に置き、バルドは大剣を肩に担いだまま座る。レオンは盾を背に立てかけ、クレアは窓の外をぼんやり眺めていた。
「さて、明日は朝早く出発する予定だが……準備は大丈夫か?」
レオンが軽く声をかける。
「身一つだ,準備なんかねぇよ。」
バルドが腕を伸ばしながら答え、ユリクも小さく頷く。
クレアは少し間を置いて、真時に向き直った。
「ねぇ……さっきの戦いの時、……どうやってあんなことを?」
彼女の瞳は好奇と少しの不安で輝いていた。
真時は肩をすくめ、言葉を選ぶ。
「……あれはスキルを使ったんだ。ギャンブルで運命を捻じ曲げる能力さ。代償もある。でも、危険な状況をひっくり返すことができる」
クレアは眉を上げ、驚きと理解が混じった表情で聞き入る。
「運命を……捻じ曲げる……?」
真時は頷く。
「そう。ギャンブルを使い、運命を捻じ曲げたんだ。
結果は予測つかないが。悪いようにはならない。お前の魔力の乱れを治すときも、それを使った。だからこそ、うまくいったんだ」
クレアは少し息をつき、真時をまっすぐ見つめた。
「……ありがとう。あの時、助けてもらわなければ、どうなっていたか……」
真時は軽く笑みを浮かべ、銀貨を握り直す。
「俺の能力は、こうして仲間を助けるためにあるんだ。無理はしたくないけど、必要な時には使う」
レオン、バルド、ユリクは何も言わず、黙って聞いていた。彼らにとっては、真時のスキルはもう理解済みで、改めて説明されるクレアの反応を見ていた。
「……わかった。あなたの力、これからも頼りにしてる」
クレアは静かに微笑むと、窓の外の月明かりに目をやった。
真時も小さく頷き、火の灯る古屋の中で、五人は静かな夜を過ごす。戦いの疲れと緊張はまだ残っていたが、仲間と互いの力を確認し合いながら、次の旅路への覚悟を胸に眠りについた。




