表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ギャブル勇者〜確率を超えて〰️  作者: 海木雷


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/181

王都へ戻る

――ラーン村・滞在最終盤


雪に包まれた村での日々は、真時にとって穏やかであっという間だった。

朝はラケイシと一緒に雪かきをし、昼はクレアの魔法練習に付き合い、夜は村人たちと焚き火を囲んで話す。

王都での緊張や騒がしさを忘れ、ただ“ここにいる”ことが心地よく感じられた。


暖炉の前で椅子に腰かけ、湯気の立つハーブ茶を飲みながら真時は小さく息をついた。

「……なんだか、ずっとここで過ごしていたような気がする」


クレアは隣で本を開きながら微笑む。

「私もそう思います。真時さんが来てくれてから、毎日が楽しくて」


ラケイシが薬草を刻む手を止め、少し冗談めかして言った。

「……そう言うなら、村に住み着いてもらうか?」


真時は苦笑して首を振る。

「そうしたい気持ちはあるけど……あと二、三日で王都に戻らないと」


クレアは寂しそうに視線を落とし、やがて小さな声で言った。

「……そうですよね。旅をする人だから」


ラケイシは妹の様子に気づき、やわらかく笑って肩を叩いた。

「別れが寂しいのは、出会いが良かった証拠だ。真時、ここで過ごしたことを忘れるなよ」


「もちろん」

真時は静かに頷いた。

暖炉の火が三人の影を壁に揺らし、温かくも少し切ない時間を包み込んでいた。


王都に戻る日が、もう間近に迫っていた。


――出発を二日後に控えた夜・ラケイシの家


暖炉の火が静かに揺れ、薪のはぜる音が部屋に響いていた。

クレアは隣の部屋で本を読んでおり、ラケイシと真時は卓を挟んで向かい合っていた。

ハーブ茶の香りが漂う中、ラケイシが不意に真剣な表情を見せた。


「……真時」

低く抑えた声に、真時は茶碗を置いて姿勢を正す。


「王都に戻るとき……クレアを一緒に連れて行ってくれないか」


静まり返った部屋に、その言葉だけが響いた。

真時は目を瞬かせ、すぐには返事ができない。


「クレアを?」


ラケイシは深く頷き、視線を落とした。

「ここで暮らすのも悪くはない。だが……あいつは魔術師見習いとしての才を伸ばすには、村よりも大きな街で学ぶべきだ。俺は薬師として村に根を下ろしたが、クレアにはもっと広い世界を見てほしい」


真時は黙って聞いていたが、やがて小さく息を吐いた。

「……でも、俺なんかでいいのか? 責任、重いぞ」


ラケイシは苦笑し、真時をまっすぐ見た。

「だからこそだ。あの日、クレアを助けてくれたお前なら任せられる。俺の代わりに……あいつを守ってやってほしい」


暖炉の炎が揺れ、ラケイシの瞳に映る。

それは兄としての強い願いだった。


真時は拳を握りしめ、ゆっくりと頷いた。

「……わかった。俺にできる限りのことをする」


ラケイシの表情が少し和らぎ、ようやく杯を手に取った。

「すまないな、真時。あいつには、明日の朝……俺から話す」


そのとき隣の部屋から、クレアの小さなあくびが聞こえた。


「ただ、あいつを悲しませるなよ」


二人は視線を交わし、自然と笑みを漏らした。



――こうして決意の夜は静かに更けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ