初依頼
掲示板に張り出された依頼票の前で、坂田は立ち止まった。
魔獣討伐、盗賊退治、遺跡探索。どれも命の危険を伴う依頼ばかりだ。
「……いきなりは無理だな」
そう呟いて視線を下げると、端に“雑用依頼”と書かれた紙束があった。
荷運び、草むしり、商隊の護衛――。
報酬はわずかだが、命を賭ける必要はない。
坂田はひとつの依頼を抜き取った。
「近郊の森で薬草採取。報酬は銅貨十枚」
生き延びるために、まずは“金”を増やす必要がある。
依頼を受理し、外へ出ると朝日が街並みを照らし始めていた。
坂田は腰の小袋を確かめる。残る銀貨は数枚と銅貨少し。
宿代を払えば数日で尽きるだろう。
「……無駄撃ちはできないな」
そう自分に言い聞かせる。
だが森へ向かう途中、坂田はふとした拍子に気づいてしまう。
――人混みの中で、リールの幻が回転する感覚を。
道端で行商人が値切られ、困った顔をしている。
坂田は立ち止まった。対価を差し込めば、きっと何か“出せる”。
だが、銅貨ひとつも惜しい状況で使うべきか……。
拳を握り、彼は通り過ぎた。
だが胸の奥に、妙なざわめきが残る。
(スキルは護身具でもあり、金を生む道具でもある……。だが、使いどころを間違えればただの浪費だ)
そう考えつつも――彼はまだ知らなかった。
森での薬草採取が、初めて“冒険者”として命を懸ける試練になることを。




