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第91話:愚策

 なるほど。


『王家』という支配層の存在に気がついている……か。




 こいつらとの利害は一致しているとみていいのかもしれない。




『白銀の勇者』ユキナの現状は追々話すとして、次に肝心なのは『覚悟』の部分。




「目的はわかった——、次に覚悟だが。おまえら二人とも、今まで培って継承してきた『伝統』やら『技術』、詰まるところ『呪力』に頼った『妖魔術』とやらを完全に捨てて、新しい力を一から鍛え直す『覚悟』はあるか?」




「——っ、『妖魔術』を捨てる?」


「……」




 俺の提案に蛇喰は言葉を詰まらせ、緋獅子は何やら考え込む様に口を噤んでいた。




 自分が信じて培い、恐らくは幼い頃から叩き込まれてきた『技術』を捨てて、全く『未知』の力を習得する。




 これは『闘い』を生業としてきた奴らにとって、全く別の人間になって生きろと言っているに等しい。




 そう簡単に割り切れる話では——。




「涼真さん、僕らが研鑽してきた『今まで』を捨てる程に、『新しい力』っていうのは」


「ええで、ワイは。おっさん、あんたの言う通り過去は丸ッと全部捨てて、新しい緋獅子炎真になったる」




 緋獅子の覚悟を乗せた言葉が蛇喰の慎重な駆け引きを打ち破り、熱意の籠った視線が俺を射抜く。




 そんな緋獅子の覚悟に驚きを隠せない様子の蛇喰が問いかけ、




「炎真、キミはそんな簡単に」




「簡単ちゃうわボケが、ええ加減認めんかいど阿呆。




 ワイらの歴史も研鑽も目の前のおっさんとツレの薄紫髪の嬢ちゃんは優に上回っとる——。




 つまりワイらが執着する限り、おっさんには永遠に勝てへん、違うか? おっさん」




「まあ、そうだな。今のお前らじゃ俺どころか『勇者』、『賢者』にすら届かない」




 俺は緋獅子の言葉に対して真っ向から思うままをぶつけてやった。




「——っ、涼真さん。今の言い方じゃ、まるで『白銀の勇者』と『改刻の賢者』より強いって言っているみたいだけど?」




 俺の言葉が信じられないと言った様子でこちらを伺う様に言葉を選ぶ蛇喰。




 よほどアイツらの実力を過大評価しているのか、俺の力を測りかねているのか。




 俺は嘘偽りなく自分の考えを告げる事にした。




「ユキ——、雪乃真白に関しては改めて話すが、『賢者』の久遠寺って奴はもう倒した」




「「——っ!?」」




「え、お兄ちゃん『久遠寺刻』に会ったの!? 写真とか、サインとかもらったっ!?」




 驚きに身を固くする二人と、全然違う驚き方をする妹。




 妹よ、ああ言うタイプはお兄ちゃんとして絶対に許容できないからな?




 あんな奴の写真やサインなんて我が家には必要ありません。




 隣で騒ぐ舞衣に表情を固くしながらも俺は驚きに目を見開いている二人を更に畳み掛ける。




「言っちゃ悪いが、あの『久遠寺』はおまえらの言う『支配層』にとってただの傀儡、もしくは箔をつけて飾りたいだけの『身内』にすぎない。つまりザコだ」




「なんだって——?」




「ハっ、ワイらが命懸けで目指しとる目標がザコ? 冗談キツいな、ホンマに」






 茫然自失として、俺の言葉を咀嚼できない様子の二人に俺は肩を竦める。




 アイツら——『王家』のやり方はいつだってそうだ。




 表立って動かすのは『壊れても替えの効く玩具』か、お飾りの『身内』。




 当の本人達は決して矢面に立たず、頑なに『支配』というやり方を好む。




「まぁ、お前らをこれ以上追い込むのも酷だが……『支配層』は自分たちの周りに最も信頼できる『強い駒』を常に配置している。




 今矢面に立っている『旗印』程度に尻込みしている様じゃ、この『駒』にすら届かない——お前らが相手にしようとしているのはそう言う輩だ」




 チラリと視線を向ければ左の人差し指と中指に嵌められた『黒』と『白』の指輪が小さく明滅。




 お前らは『駒』なんかじゃないよ。


 


「ちょっと、待って。本当に涼真さんて何者なのさ? 僕らですら四大クランを支配する『支配層』の存在に気がついたのはここ数ヶ月の話だよ? 大体、その情報の信憑性は——っ」




 信じたくない現実を否定する様に理屈を捏ね始めた蛇喰を押し除け、緋獅子は立ち上がり俺の前にその燃え盛るような髪色の頭を深く下げ、叫んだ。




「おっさん、いや、涼真の旦那! ワイは、何がなんでも『力』つけなアカンのです。




 今までの比例無礼はどんだけでも償う! この通り頼んます!


 ワイを漢にして下さいっ!」




「驚いたな……キミが、誰かに頭を下げる所を見るなんて——。




 涼真さん、僕もこの際強がりは捨ててお願いするよ、いいや、お願いします涼真さん。




 僕と彼をせめて『彼ら』と渡り合えるステージに上がる為、ご指導をお願いできないでしょうか」




 緋獅子の熱い思いに触発されたのか、揃って深く頭を下げる若者二人を前に俺は、隣から『ここで断るとかあり得ない』とでも言いたげな妹のじっとりとした視線に苦笑いを浮かべる。




「わかった。だが、俺からも追加でいくつか条件を出させてもらうがいいか?」




「「——条件」」




 一旦は頷いた俺に安堵したような顔を上げた二人が『条件』という単語に神妙な面持ちとなる。




 隣からは相変わらず妹の視線が突き刺さって痛い。




 大丈夫だ妹よ、こう見えても『勇者時代』は腹の真っ黒な貴族連中や海千山千の大商人を『交渉』というフィールドで相手取った事もあるんだからな?




 今抱えている『俺の問題』とこいつらの問題を上手い事噛み合わせて丸っと解決できる!!




 お兄ちゃんの底力! 社会でも通用する姿を篤と焼き付けよ!!




「そう構えなくてもいい。


 


 俺が『条件』にしたいのは今回の『依頼』を受ける代わりに俺が〈探索者(シーカー)〉として〈ダンジョン〉に潜れるよう、お前たちの力でダンジョン協会とやらに便宜を測ってもらってだな……。




 出来ればややこしい『試験』なんかもパス出来れば——」




 ふふふ、これで俺はあのややこしい『筆記試験』という難関をクリア出来るんじゃないか?




探索者(シーカー)〉にさえなればダンジョンでモンスターを狩りまくって簡単に『一儲け』することも!! 俺ならば出来る!




 なんせ、たかが数十体のゴブリンで『九〇万』だからな。




 もっと上位種を狩れば……なんだ、妹よ、何故そんな『塵芥』を見るような目でお兄ちゃんを見ている?




「あ〜、涼真さん。流石に僕らでも『協会』に対して『裏取引』を持ちかけるような『愚策』はとれないかな」




「下手したら話持ち出した時点で『犯罪』やで?」




「お兄ちゃん、最低……」




 え? 何この空気、え? なんでこうなった!?

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